日文3

日文3

作者:Hzhzk12340

さて、M物の中でもM格闘物、というジャンルがありますが、男女間の体力差という絶対要因があるため、基本的には以下のどれかのパターン、もしくはその組み合わせになることが多いと思います。

1.男の子を問答無用に弱い、軟弱坊やに設定するパターン。「レイコとシンジ」は、この基本的にこのパターンです。

2.女の子を極端に強くするパターン。説明抜き、ディテール抜き、で女の子をとにかく強く設定してしまうパターン。たとえばMISTRESS誌に連載されている「立志館高校」のように、「体育科の教師も凄まじいプロレス技にあっという間に叩き伏せられた。」としてしまい、強引に片付けるパターン。確かに、神取忍やアジャ コングを連れてくれば、この設定も有りかもしれませんが、現実無視という点ではまあ、ある種のSF的なパターンです。

3.金蹴りパターン。これはある種の王道ですね。女の子優勢での止めの一撃、油断した男への不意打ちの一撃、いろんなパターンがあります。現実の護身術からしても、大部分はこのパターンを基本戦術にしています。

今回はM格闘物ですが、パターン1は初期の「蹴り地獄」でやってみましたし、パターン3はもう色んなパターンの小説が溢れているので、敢えてどのパターンにも該当せず、かつパターン2ほど、荒唐無稽にならないパターンを考えてみました。

タイトルの「復讐するは我にあり」は勿論、佐木隆三の同名小説から取りました。流石、聖書の一節から取っただけあって、重層的な、含蓄のあるタイトルだと思います。

「レイコとシンジ 復讐するは我にあり 前編」

初めてだった。翌朝目覚めた時、背中、尻、脇腹、慎治たちの全身に礼子たちの鞭の痛みが残っていた。それだけならいつものことだ。だが恨み、富美代と朝子におしっこを引っ掛けられ、馬糞まみれにされた恨みは消えていなかった。いや、一晩置いて尚一層、恨みはつのっていたかもしれない。肉体的な痛みは時間と共に急速に薄れていく。だが精神的な痛みは時間と共に却って増していく。慎治たちはその痛みに駆り立てられるように、復讐の幻想を語り合い、精神の傷口を舐めあっていた。二人は本気だった。本気で,真面目に仕返ししようと必死で知恵を絞って、来る日も来る日も復習計画を練っていた。

それが間違いだった。考えれば考えるほど、礼子たちと自分たちの実力差に思いが至ってしまう。いや、礼子たちどころではない。仮に二人掛かりで行ったとしても、慎治たちの腕力では富美代や朝子にも軽くあしらわれてしまうだろう。そのことは嫌と言うほど思い知らされている。だから慎治たちの企みはとんでもない方向に進んでいってしまった。そう、誰か人を,礼子たちより強い人に頼んで、礼子たちをやっつけてもらう、という考えに。とんでもない考え違いだった。確かに礼子たちは慎治たちより遥かに強い。だが、それ

がどうしたと言うのだろうか。礼子たちといえども、24時間いつも気を張っているわけではない。慎治たちが本当に自分を捨て,復讐を最優先とするならば、手段などいくらでもある。

例えば後ろからナイフで刺すとか闇討ちをかけるとか家に火をつけるとか、極端に言えばヤクザからピストルを買い,撃つという手だってある。いくら礼子たちが強い,と言っても,それは真っ向から向かい合った時の話だ。慎治たちが、自分が犯罪者になったって構わない,という覚悟さえできれば、手段はいくらでもある。突き詰めれば人を殺す,ということはナイフを10センチ前に突き出す,ピストルの引き金を数センチ引く,と言った,僅か数センチの動きを躊躇い無くできるかどうか、に過ぎない。慎治たちはその数センチの覚悟がなかった。本当にもう礼子たちに苛められるのが嫌だ,この地獄から抜け出るためなら,どんなことでもする、自分が犯罪者になるのなんて、全然構わない。礼子たちを殺すか,自分たちが死ぬか,どちらか二つに一つだ。ここまで考え覚悟を固めていれば、おのずと腹も固まり,本当に復讐できたかも知れない。

だが慎治たちはそうではなかった。何が何でも復讐してやる,という硬い決意を持てないままに、言葉だけで復讐,という重い覚悟を孕んだ言葉を弄んでいた。逆に言えば,そうやっていつまでたっても覚悟が固まらず,無意味なプチ反抗だけを繰り返してきたからこそ、礼子たちにここまでいいように苛められて来た訳だが。ともあれ、慎治たちはおよそ最悪の選択,自分たちの運命を賭けた復讐を赤の他人に依頼しよう、という致命的なミスをおかしてしまった。赤の他人,慎治たちと違い,礼子たちに別に恨みがあるわけでも何でもないから、失敗しても別にどうということはない人間に復讐を依頼する、というのが何を意味するか。そして、その所詮他人事の依頼が失敗した場合に、礼子たちがどういう行動に出るか,慎治たちは考えを巡らすことができなかった。むしろ、「礼子さんたちよりもっと強い人に頼めばいいんだ!」と何か,自分たちがぶつかっている分厚い壁をブレイクする天啓を得たかのような幻想に酔い,甘い期待に打ち震えてしまっていた。

だが復讐を依頼できる相手はなかなか見つらなかった。強く,しかも礼子たちを,女の子を平気でグチャグチャにできる男。もともとワルでもなんでもない慎治たちにそんな知り合いがいるわけない。だが八方手を尽くして探している内に,一本の糸が繋がってしまった。そして慎治たちの運命も、大きく変わろうとしていた。

「なあ慎治、あいつらのこと、先輩に頼んでやっちゃおうぜ・・・」またか、慎治は何の気なしに応じた。先輩、信次が中学の頃、パシリに使われた先輩とやらに頼んで礼子たちをやっつけて貰おう、て話だよな。全く、そんなこと、出来るわけ無いくせに・・・何十回目かの答えだった。「やっちゃうって、誰に?

そんな中学の時の先輩に頼む位なら、ヤクザでも雇った方がまだマシじゃない?」いつもだったら、ここでおしまいの話だ。だが今日は違っていた。信次は目をギラつかせながら、身を乗り出してきた。「違うんだよ、慎治、俺の直接の先輩じゃないんだけどさ、紹介してくれる、ていうんだよ。」紹介ね、ふーん、誰を?どうせ、どうでもいい、その辺にたむろってるチンピラだろ?「いや慎治、それが驚けよ、SNOW CRACKだぜ?あそこの坊野さん、あの人と話が繋がる、て言うんだよ!」

慎治もこれには些か驚いた。SNOW CRACK、一見テニスサークルかと思うような軟派な名前の彼らは,通称白ギャンとも呼ばれ地元で一目置かれる、いや最悪,札付きのワルだった。専門は名前のとおりドラッグの密売だが、幹部を含め末端に至るまで全員理性が欠片すらない、イカれたメンバー揃いのギャングだった。男は殴る,女はレイプする,金が欲しけりゃ強盗でもなんでもする、狂犬同然の連中だった。いずれあと数年したら全員、ヤクザ、廃人、黒枠の写真に収まっている,のどれかだ、と噂されるだけあり手のつけ様が無い、本職のヤクザでさえ関わりあいになるのを嫌がる連中だった。勿論、マジ坊の慎治は名前だけは知っているが、会ったこともない、遠い存在だ。その連中に信次はあたりをつけられる、と言うのだ。「信次、それ、本当か?スノー、て、あのチームだろ?幾らなんでも、あそこに頼めるわけないだろ?僕たちなんか,会っただけで金、せびられるのがオチじゃないの?」「いや、これが本当なんだよ。中学の時の先輩の友達の従兄弟がさ、あそこのプレジの坊野さんなんだよ。でさ、頼めば、カネ次第では坊野さん、力貸してくれそうだっていうんだよ。上手いことにさその人、サブ、ていうより坊野さんとタメの検見川さんって人ともツーカーだっていうんだぜ、どうだい、これ、凄え話じゃないか?」

けみがわ・・・けみがわ、検見川・・・慎治の頭の中で引っ掛かるものがあった、検見川、随分珍しい苗字だな・・・「信次、ひょっとしてその検見川さん、て人、僕と中学一緒じゃない?でさ、ホストっぽい、矢鱈と逝けてるルックスの人じゃない?」「あ、そう言えば・・・確かに検見川さん、慎治と同じ中学だよ。うん、確かにあの人、滅茶苦茶鬼畜な癖して,顔は矢鱈と逝けてるけどさ、それがどうかしたのか?」「その検見川さん、僕たちより2年上、丁度僕たちが新入生の頃の最上級生だよね・・・検見川、そんな珍しい苗字の人、あの人しかいないよ、きっと!」「な、なになに慎治、検見川さん、知ってるのか?」「うん・・・いや、僕は殆ど話したことないんだけどさ、富美ちゃんが超お熱だったんだよ。検見川さん、ちょっと危ない感じもする人じゃん?だからさ、富美ちゃん、最後まで告れないまま検見川さんが卒業しちゃってさ、それっきりになっちゃったんだ。だけど、富美ちゃ

んが超お熱だったのはみんな知ってる、有名な話だよ。」運命の歯車がコトリと不吉な音を立てた。「・・・慎治、プレジの坊野さんだけじゃなくてサブの検見川さんとも話つながりそうじゃん・・・これ、これって・・・俺たちにも、俺たちにもやっと、やっとツキが回ってきたかもしれないぜ!」

早速セットに入った慎治たちに朗報がもたらされたのは、2週間後だった。指定されたファミレスで慎治が会ったのは確かに、中学の時にいた検見川先輩だった。「オウヨ?おまえ、なんか見覚えあるな。もしかして、おまえ、中学の時,俺と被ってなかったか?確か・・・富美代だっけ、あの小うるせーガキとつるんでなかったっけ?」「は、はい。富美ちゃんのこと、覚えていらっしゃいましたか?」「ああ。あいつ、小便臭いガキのくせしてうるさく付きまといやがってよ、結構ウザかったな。あいつ、真面目な子のくせして俺のこと、なんかいい人系と勘違いして付きまとってたろ?笑っちまうよな、こっちは全然その気ないのによ。ウゼーから一回姦っちまうか、と思ってたけどよ、あの頃は俺も人間、丸かったからな、いい人ごっこして遊んでる内に卒業しちまって、それっきりになったけどな。どうよ、あいつも元気してるか?」よかった。覚えていてくれた、しかも富美ちゃんのこと、好意も何も持ってない、じゃあ話は早い。慎治たちは手早く用件を説明した。話は簡単,言葉にすれば僅か1,2行だ。天城礼子,霧島玲子,神崎富美代,萩朝子、この四人を攫ってグチャグチャにレイプして欲しい。できたらレイプ写真も撮って欲しい。そんな写真をばら撒かれたら二度と表を歩けない,という位,恥ずかしい写真を撮って欲しい・・・「ふーん、慎治,何があったかは知らねーけどさ、よっぽど富美代たちのこと、むかついてるんだなー。大方,お前ら高望みしてこいつらに告って派手に振られた、てとこか?ま、別にいいけどよ。坊ちゃん,どうよ?」「おう・・・でもよ,この子たち、マジでいけてねーか?こりゃよ・・・こいつらの依頼抜きでもやっちまいてーよな。こういうお高く止まった女のよ、姦った時の泣き声ってシビレルからな。四人か、全員いい線逝ってるじゃねーか。じゃーよ、奈良村と須崎もこういうタイプ、結構好みだからな、連中も誘ってやろうぜ。・・・OK、おい、おまえ信次、て言ったな、普段はこんな値段じゃ動く気しねーけどな、こいつら上玉揃いだ、出血大サービスしてやるよ。一人十万,四人で四十万積みな。そしたらよ、おまえらの望み通り、グチャグチャに姦ってやるよ。今言った奈良村と須崎な、こいつら、うちのNO.3とNO.4だぜ?それに俺とケミ、うちのNO.1からNO.4揃い踏みの超豪華メンバーで姦ってやるぜ・・・望みどおり姦ってやるぜ。派手に、たっぷりとな。ケミちゃん、この内のこいつ、知り合いなんだろ?だったら、絵は描きやすくねーか?頼むぜ,こいつ

ら上玉揃いじゃん?俺にも楽しませてくれよ!」「オウヨ!ま、その手の絵は俺の専門分野だからな、任せときな。富美代か、よく見ると中坊の時よりグッといい女になってるじゃねーか。中坊の時は食いそびれたけどな、今度は遠慮なく食わしてもらおうか!」

やった、やった、やったーっっっ!!!慎治たちは外に出てから、思わず抱き合って大喜びしてしまった。「や、やった、やったな慎治!」「うん!うん!聞いた?派手に、たっぷりと姦ってくれるんだって!あの人たちが派手に、て言うんだよ!?富美ちゃんも礼子さんたちも、もう終わった、て感じ?」「そうだそうだ!もう四人まとめて終わったよな!キケケケケ!あいつらの泣き顔が目に浮かぶようだぜ!」「イヒ、イヒヒヒヒ!あー、もう早く姦ってくれないかな!富美ちゃんたちが姦られた後、どんな顔して出てくるか、考えただけでも興奮しちゃぅよ!!!」慎治たちは復讐の快感、未だ実際には何も起きていないのに、もう復讐を果たしたかのように束の間、復讐の快感に浸っていた。

検見川は早速、富美代を誘うきっかけを探り始めた。余計な警戒心を持たれずに接触するいい方法を。「よし、慎治、おまえ、富美代たちとよく話すんだろ?そろそろ文化祭シーズンだからよ、連中もどっかの高校の文化祭、行く筈なんだよ。それ聞き出したらよ、俺に報告しな。そこで偶然の再会って奴を演出してやるからよ。」検見川の読み通りだった。人気ブランド校の聖華だ、文化祭シーズンになると各校からの誘いは激しい。そして聖華の中でも有数のハイレベルを誇る礼子たち四人は当然の如く人気抜群だ。慎治が横で聞き耳立てていると、毎週のようにあっちこっちの文化祭に出かけているようだった。慎治たちを毎週末鞭打つ、とは言っても人間の身体だ、土日両日とも鞭打っていたのでは流石に慎治たちの身体が持たない。だから礼子たちの基本的なパターンは土曜に慎治たちを苛め、日曜は自分たちだけでどこかに遊びに行く、というものだった。慎治が礼子たちの予定を逐一、検見川に報告していると、ある一校のところで検見川の目が光った。

「うん?来週、二宮義塾か。いいな、ここ坊野の高校だ。ここにするか。」慎治にとっては意外な一言だった。二宮義塾、相当にハイレベルの高校だ。受験偏差値で言えば聖華より高い位、都内でも上位に属する高校だ。実は坊野に限らず、検見川、奈良村、須崎は皆、比較的レベルの高い高校に通っている。彼らは決して馬鹿ではない。彼らに言わせれば工業高校にでも通って族やギャングをやってる連中はサルなみの低脳、時代遅れのパフォーマンスしか出来ない連中だ。今時、気の利いたワルをやるには、少しは頭が必要だろ、と思っている。実際、彼らはレイプ、恐喝、暴行なんでもありの凶悪チームのくせして未だ警察につかまったことはなかった。勿論、警察に相当マークはされているのだが、周到な準備、口封じ

を徹底し、捕まるにしても精々下っ端、坊野たち四人は今まで全くの無傷だった。

そして日曜日、二宮義塾の文化祭に礼子と富美代が現れた。ブラブラ催し物を見ている二人に次々と誘いがかかる。遠くからでも強烈に目立つ二人だ、誘いは引っ切り無しにかかる。それを適当にあしらいながら回っている二人が漸く一息ついたタイミングを計り、検見川と坊野は行動に移った。「あれ、もしかして富美ちゃん、神崎、富美ちゃんじゃない?」え、誰かしら?知ってる人かな?ベンチに座ってコーヒーを飲んでいるところに後ろから声をかけられ、振り向いた富美代は思わず声を上げそうになった。「あ、け、検見川先輩じゃないですか!え、先輩、この高校なんですか?」そこに立っていたのは中学のとき憧れていた先輩、検見川だった。相変わらずの端正な顔に爽やかな微笑と驚いたような表情を浮べ、両手を広げていた。「いや、俺はここじゃないんだけどさ、友達がここだから遊びに来てたんだよ。あ、紹介するよ、坊野、て言うんだ。」

「あ、よろしく、ケミの後輩?」内心のどす黒さを隠しながら、坊野も爽やかな微笑を浮べた。フン、今日は二人だけか。依頼のあったもう二人、霧島玲子と萩朝子は一緒じゃないな。まあいい、今日は仕込みだけにしとくか。食うのは後でゆっくりと楽しめばいいからな・・・それにしても、こいつら二人、マジ上玉だな。後で輪姦すのが楽しみだな。余計な警戒心をもたれないように近くのオープンカフェに二人を誘い、検見川は如何にも嬉しそうに切り出した。「いやー、でも驚いたなあ。こんなとこで富美ちゃんに会うなんてさ。でもほんと、可愛くなったね。今、どこに通ってるの?」「え、せ、聖華です。礼子も聖華のクラスメートなんですよ。」「あ、聖華なんだ。いいねえ。あそこ名門じゃん?」中学の時の憧れ、検見川先輩との思わぬ再会に富美代はすっかり舞い上っていた。高いプライドと十分な警戒心を持っている富美代は普段、ナンパなんぞについていくタイプではない。だが今日ばかりは警戒心がすっかり緩んでいた。横にいる礼子も半ば苦笑していた。あらあら顔真っ赤にしちゃって。クールが売りの富美ちゃんがこんなに顔に出るなんて、初めて見たわ。後で精々冷やかしてやろうっと!検見川たちはしたたかだった。今日、無理してどこかに誘えば余計な警戒心を持たせかねない。だから深追いして無理に誘ったりはせず、携帯ナンバーだけ聞き出すとさっさと話題を切り替え、次に繋ぎながら巧みにリリースに取り掛かった。

「ふう、本当はもっとゆっくりしてたいんだけどさ、俺たちも今日は自分のサークルにも顔出さなくちゃいけないんだ。悪いけど、お先に失礼な。また今度、どこかで会えるといいね。」え、折角再会したのにもう行っちゃうの!?富美代は思わず焦ってしまった。憧れの検見川先輩との予期せぬ再会に舞い上がったところにあっさり終わりを告げられ

、すっかり動揺した富美代は普段からは考えられない行動に出てしまった。「え!も、もう行っちゃうんですか!もうちょっといいじゃないですか!せ、折角会えたんだし・・・」フン、バカが、引っ掛かりやがったな。耳まで赤くしている富美代を見ながら、冷酷さを内面に隠しながら検見川はあくまで爽やかそうに、かつ、いかにも残念そうに首を振った。「ああ、ほんと、ごめんな。俺もまさか今日、富美ちゃんと会えるとは思ってなかったからさ、この後、予定びっしり入れちゃったんだよ。ほんと、残念だなあ、もっとゆっくりしてたいんだけどね。なあ、坊野?」「ああ、俺も折角だし、もうちょっとお茶してたいんだけどな。でも、もうマジで行かないと、遅れちゃうぞ!?」え、ええ?本当に行っちゃうの?完全に動転した富美代は思わず、常日頃とは正反対の行動に出てしまった。自分から誘う、という行動に。「せ、先輩!じゃ、じゃあ今度、い、一回どこか、ゆっくり遊びに連れてってくださいよ!」ゲット!検見川が内心、ほくそえんでいるだろうと思い、坊野は笑いを押さえるのに必死だった。ったく、ケミは女引っ掛けるの、上手いよな。この手のお高く止まった女はこっちからいくら誘ったってなびかねーからな、こうやって一度リリースしといて、てめえの方から誘わせるのがコツなんだよな。

絶妙の間合いと本日最高の笑顔で検見川は誘い返した。オッケー、一匹ゲット!ったく、この手はよく効くな。「あ、嬉しいな!富美ちゃんもまた、会いたい、て思ってくれたんだ!いや、俺もさ、絶対もう一度会いたいな、て思ったんだけどさ、富美ちゃん、あんまり可愛くなってたんで、ついつい誘いにくくてさ、後でメールでも送ろうか思ってたんだよ。じゃあさ、ほら俺たち、富美ちゃんたちから二個上だろ、丁度四輪の免許取ったとこなんだよ。でさ、坊野と俺、車買ったばかりだからさ、後二人、奈良村と須崎、ていう友達がいるんだけど、そいつらと毎週ドライブ行ってるんだ。どう、富美ちゃんと礼子ちゃんも今度、一緒に行かない?誰か後二人誘ってさ、四対四で行かないかい?」「え、本当ですか!わあ、嬉しい!検見川先輩とドライブできるなんて最高!うん、勿論行きます!ね。礼子、礼子も勿論OKよね?先輩たち四人だから、私たちも後二人、玲子と朝子を誘おうよ!」はいはい、富美ちゃん、もう完全その気ね。玲子と朝子も呼ぶですって?超豪華メンバーじゃない、なんか勝負入ってない?まあ、いいけど。中学の時の憧れの先輩だもんね、いいわよ、ドライブ位、付き合ってあげる。半ば呆れながらも礼子はニッコリと輝くような笑顔でフォローした。「うん、いいわよ。富美ちゃんの先輩とドライブだなんて、私も嬉しいな!私も喜んで行きます!」

礼子の返事を聞いて坊野と検見川は内心、ニヤリとほくそ笑んだ。上手く引っ掛かったな。残りの二人、霧島玲子と萩朝子もこれで誘い出せたぜ

。バーカ、俺たちにノコノコついて来るなんてよ、一生忘れられないドライブにしてやるぜ・・・余計な警戒を持たれないように、検見川はこの日はこのまま本当に、あっさりと富美代たちを帰した。その代わり、メールを二日おきに入れてメンテを怠らず、富美代の熱を保ちつづけた。一方、その夜富美代は早速、玲子と朝子に誘いの電話を入れていた。「ねえ玲子、お願い!私、先輩と上手く行きそうなんだからさ、協力してよ!」「朝子、絶対付き合って!今度、なんでも好きなの奢るからさ!」全く、富美ちゃんがちょっと笑ってあげれば、向こうから必死で追っかけてくるに決まってるじゃん。あんたの方から追っかけてどうするのよ。富美ちゃんも意外とお子様なんだから・・・礼子と同じく、半ば呆れながらも玲子と朝子もOKした。ま、富美ちゃんがこんだけ言うんだもん、しゃーないわね、ドライブ位、付き合ってあげるわよ。

だが、四人の中で唯一、玲子だけは何か妙に引っ掛かるものを感じていた。偶然の再会、ドライブ、今度は四人で行こうよ・・・何か変ね。何か出来すぎてるような気がするな。一つ一つは極めて自然よ。でも・・・まあ検見川さんは富美ちゃんにとって、ずっとお熱の先輩なんだからね、余裕かましてられるかも知れないけど、あの日は礼子も一緒にいたのよね・・・あの二人とお茶して、あんなにあっさり帰るなんて、普通ある?そりゃ、確かに人には好み、ていうものがあるからね、いくら礼子といっても、ああいう真面目でお高いタイプが苦手の男にとってはNO INTかも知れないわ。だけど、だったらわざわざ四対四で、人数増やしてドライブ行こうなんて誘うかしら?メアド交換したのよ、富美ちゃんだけどこかに誘えば十分じゃない?礼子に舞い上がってたならともかく、随分あっさり別れたんでしょ?それでドライブ?何か変ね・・・玲子の直感、礼子たちより少しワルの部分の多い玲子の直感は鋭かった。元々、中学の頃はクラスメートを自殺未遂に追い込むほどの冷酷な苛め常習犯だった玲子だ。今でこそ信次たちという格好のオモチャと、礼子たちといういい友達の両方を得てすっかり更生しているとはいえ、その頃の知り合いで高校ではヤンキー化している連中は何人もいる。早速ツテを辿って調べてみた。結果は・・・ビンゴだった。玲子からその名前を聞いた連中は異口同音にこう答えた。「二宮義塾の坊野、それに検見川だって?そいつら、SNOW CRACKのNO.1とNO.2だぜ?男は殴る、女は輪姦す、最低最悪の連中だよ。で、何?後の二人は奈良村と須崎?そいつらはNO.3とNO.4だぜ。おいおい、SNOW CRACKの幹部揃い踏みじゃん!え、あいつらが中学の時の後輩と健全なお付き合い?するわけないだろ!宅間守が小学校の先生やります、て言ってるようなもんだぜ!?あいつら、野獣以下の連中だぞ、大方、グチャグチャに輪姦してビデオで

も撮って裏に流そう、ていう魂胆だろ?玲子、その子が玲子の友達だったら、絶対にやめさせた方がいいぞ。その子に一生取り返しのつかない傷を負わされること、100%保証付きだぜ。悪い事言わねえ、断れないんだったらマジで速攻、警察行ったほうがいいぜ?あいつらが相手だったら、警察だって絶対、何もないうちにだって手、貸してくれるぞ。」

「ふう、やっぱりね。ありがとう、よく分かった、恩に着るわ。」三人目の電話を切り、玲子は軽く溜息をついた。どう見ても罠だ。今なら簡単、誘いを断り逃げればいい。流石にこの段階なら大丈夫、向こうも勘付かれた、と気づいてもう近づいてこないだろう。確かに警察沙汰にする手もある。普通なら警察が未だ何も起きていない今の段階で動くわけないけど、相手はSNOW CRACK、警察も何とかしてくれるだろう。最悪、自分と礼子の両親の名前を出せば、多分助けてくれるわ。だけど・・・問題は富美ちゃんよね。こう盛り上がってる時に水掛けて、あの子止まるかしら。玲子は富美代に直接電話するのを止め、まずは礼子に相談することにした。「ふーん、確かに。言われてみると、やっぱり妙に不自然よね。文化祭で出くわすのはよくあるパターンだとしても、確かに出来すぎよね。ましてや、相手がそういう・・・SNOW CRACKだっけ?そういう極悪の連中だとしたら、尚更よね。ふう、玲子が調べてくれて助かったわ。ありがとう・・・だけど・・・問題はやっぱり、富美ちゃんよね。」流石に検見川たちに何の思い入れもない礼子は冷静だった。玲子の話を素直に受け止め、もう検見川たちのことは全く信用していない。「でしょ?で、どうなの実際?富美ちゃん今の話聞いて、すぐに目を覚まして引きそう?あの手の手合い、一番いいのは関わりあわない事よ。今の段階なら、適当な理由つけて断って、その後二度と合わなければまあ、向こうも諦めて別の獲物探しに行くと思うのよね。だけど富美ちゃん、すんなり引いてくれそう?」

礼子の脳裏に富美代の端正な顔が浮かんだ。富美ちゃん、顔立ちも態度も普段はクール系なのにな、時々、スイッチが入るとやたら熱くのめりこじゃうのよね。のめりこんじゃった富美ちゃんを止めるのって、結構骨だわ・・・「うーん、正直言って、厳しいわね。玲子もそう思ってるんでしょ?富美ちゃん、ああ見えて妙に一途だからさ、未だ何も起きてない今の段階で止める、て言うのは、結構難しいわね。」「やっぱね・・・私もそうじゃないかと思ったんだ。でね、最悪のパターン、て分かる?最悪のパターンはね、私や礼子たちは引いちゃったけど、富美ちゃんは私の言うこと信じられなくて、ズルズル連中の誘いに乗っちゃって一人でついてっちゃうこと。それは・・・お願い、私をレイプして、て、おねだりしに行くようなものよ。連中、人間じゃないわ。野獣同然だからね。そんな連中相手に一人で行くなんて

、文字通り自殺行為よ。」「参ったわね、全く。どうしよう・・・玲子、こういう方面は玲子の方が詳しいわ。何かいい考えない?」「そうね・・・礼子、会ったのは二人、坊野と検見川、て言ってたわね。私が聞いた限りじゃ、あの二人がチームのNO.1とNO.2だそうなのよ。で、見た感じどうだった?連中がどの程度の強さなのか、礼子なら分かるんじゃない?」

礼子は二人の姿を思い浮かべてみた。身長は175センチ前後、礼子たちよりやや上だが、大して大柄なわけではない。決して貧弱な体格ではないが、肩幅、体の厚みもそれほどではない。「・・・そうね。確かに悪くない体格だけど、そう特別いいわけではないわ。少なくとも空手とか柔道とか、本格的に格闘技をやり込んだ、プロの格闘家系の体じゃないわね。あんまりじっくり観察したわけじゃないけど、格闘系に限らなくても、とにかく体を鍛えこんでる、ていう感じはしなかったわね。そんなに絶対的なパワーがあるタイプには見えなかったな。極悪チームなんでしょ?喧嘩はし慣れてるんだろうけど、多分、鍛えたのは路上の実戦で、ていうタイプ、腕力よりむしろナイフとか、すぐ武器に頼るタイプだと思うわ。」「そう。じゃ素直に見て、もしやりあったとしたら、どう、勝てそうな相手?」「うーん、まともに一対一、素手対素手でやり合えば、多分勝てると思うわ。だけど、多分ナイフかなんか持ってると思うわ。ナイフなんか出されたら、たとえ勝ててもこっちも無傷じゃ済まないかも知れないよ?」玲子はクスッと笑った。「そこは大丈夫。確かにナイフ対素手だったら、怪我するかも知れないわ。だけど、予め相手がそういう手合いだと分かっていれば、こっちも準備していけるわ。礼子も私も、武器は得意よね。素手で勝てる相手になら、武器を持ったら更にその差は広がるわ。こっちも準備して行けば大丈夫よ!」

礼子たちの見立ては正確だった。坊野たちは確かに極悪チームで有名だし、喧嘩は日常茶飯事だ。だが、彼等が極悪チームと言われる所以は喧嘩の強さそれ自体ではない。むしろ、そのやり口に負うところが大きい。彼等は一言で言って、汚い喧嘩専門だ。一対多数、素手対武器有、といった汚い手を専門としており、得意技は闇討ち、騙まし討ちである。坊野にしろ検見川にしろ、堂々とタイマン張ったことなど、殆どない。タイマンを申し込まれても受けずに逃げ回り、不意討ち、闇討ちで相手を潰すのが常套手段だった。玲子はそれを逆手に取ろうと考えていた。正面から行けば、今度の誘いに敢えて乗ってやれば、向こうは私たちのこと、女の子、と油断してくるはず。チームの他のメンバーを連れてくることはないんじゃないかしら。そうしたら四対四、実質、一対一の勝負に持ち込める。一対一の勝負であれば、なんとかなるんじゃないかしら。そして向こうが襲ってきたところを返り討ちにすれば、後は警察に引き渡せるわ。レ

イプ未遂、ということで連中をまとめて少年院送りにできる。たとえ勝っても、リターンマッチ代わりに付け狙われたんじゃ、勝ったことにならないものね。一気にカタをつけるには、どうしても連中を少年院送りにしなくちゃならないけど、向こうの誘いに乗ってやっての返り討ちなら、正当防衛と警察に引き渡す理由と、両方一気に条件クリアよ!

いくら礼子たちが強い、と言っても流石に女の子の限界はある。肉体、パワーの壁は如何ともし難いものがある。礼子たちをもってしても本格的に鍛えこんだ、たとえば極真の有段者クラスと正面からぶつかっては勝ち目は薄い。そして礼子たちにとって、最もやりにくい相手は鍛え上げ、パワーに溢れたゴリラタイプだ。そういったパワーファイターであれば、極端な話、全く格闘技経験がなくても十二分に脅威だ。例えばラグビーのフォワードやアメラグのラインをやっている連中にフルパワーのタックルだけ、電車道のように往復されれば本当に対処に困ってしまう。だが、幸い坊野たちはそうではない。汚い手が得意、という相手には、こっちも準備さえしっかりしていけば、対応法はいくらでもあるわ。玲子の決断は明快だった。

「礼子、危険はあるけど仕方ないわ。忠告だけして、後は自己責任よ、て言って放っとく考えもあるけど、みすみす富美ちゃんをレイプさせるわけにはいかないわ。そうでしょ?だったら手は一つ、逃げられないなら前に出て、あいつらを叩き潰すしかないわ。向こうは油断してる。一気に向こうのトップ四人を潰して、少年院送りにしちゃえば私たちの勝ちよ。どう、やる?」「そうね。・・・富美ちゃんを見捨てるわけにはいかないわ。玲子、やろう!」礼子の美しい瞳の奥に、青白い炎が燃え上がった。そして礼子たちは朝子にも十分な説明をし、手を貸してくれるよう頼んだ。「うん、分かった。いいよ、富美ちゃんが危ないんじゃ仕方ないよね。私もやるよ!」朝子も腹をくくった。

慎治に待ちに待った連絡が来たのは金曜だった。「オウ、慎治か!?俺だ、検見川だ。例の件な、あさっての日曜にやるぜ!でな、俺たちは寛大だから、特別サービスをつけてやるよ。」「え、さ、サービスって、な、何ですか?」電話の向こうで検見川の笑い声が聞こえる。「オウ、おまえら、富美代たちに恨みがあるんだろ?だったらよ、やつらが輪姦されるとこ、ライブで見たくねーか?」「え、み、見せて貰えるんですか!?」「オウ、俺たちがいつも使ってるアジトに夕方連れ込むからよ、そこの二階からなら、たっぷりと特等席でショーを拝めるぜ。なんなら、俺たちの後でおまえらも姦らせてやろうか?」ひ、そ、そんな!僕たちが関わってるなんてバレタら、間違いなく礼子さんに殺される!「い、いえ、そ、それだけは・・・」「・・・あんだ?度胸のねー奴だな、ったく。ま、いいや、姦りたくねーんなら、好きにしな。で、どうするよ、ショーは見るか

?」これには一も二もない。「お、お願いします!ぜ、ぜひ、ぜひお願いします!」慎治たちにとっても、眠れぬ夜のカウントダウンが開始された。

そしてドライブの日がきた。集合場所に集まった四人、坊野、検見川、奈良村、須崎の四人は一見、別に普通の高校生と区別はつかない。茶髪でストリート系のファッションだが、実態の凶悪さを感じさせる出で立ちではない。そして三々五々礼子たちが現れた。礼子たちは警戒心を持たせぬよう、一見、普通に振舞っていたがどこか、緊張感を漂わせている。礼子はベージュのレザージャケットに焦茶色のスエードっぽいフェイクレザーパンツ、それに同じく茶色のショートブーツを合わせていた。玲子は黒いレザージャケットに細身のデザイナージーンズ、そして脚の細さを強調するかのように、ジーンズの上に黒いロングブーツを履いている。そして朝子は白いブラウスの上に明るい茶色のレザーベストと同系色のレザースカート、そして白いウエスタンブーツを履いてきた。三人三様、だが奇妙な共通点があった。三人ともブーツを履いているが、ハイヒールではなく、極めて動きやすそうなタイプであること、そしてベルト、がっちりした、如何にも硬そうなバックルのついた革ベルトを締めていることだった。

そして最後に今日の主役、富美代が現れた。「あーっ何、富美ちゃん、随分可愛く極めてきたわね!」礼子が呆れたような声をあげた。富美代は白いブラウスの上に赤いベスト、そして赤をベースにしたタータンチェックのスカート、そして一体どこで探したのか、真っ赤な膝下まであるロングブーツを履いていた。ワインカラーのような落ち着いた色ではない、トマト色、とでも言ったらいいだろうか、極めて明るいイタリアンレッドのブーツ、そしてそのヒールは7センチの高さは良いとして、極めて細いメタルピンヒールだった。鮮烈な赤にメタルの銀色が絶妙のアクセントになっている。「全く、一体どこで買ったの、そんなブーツ、初めて見たわ!」「えへへ、検見川先輩、赤が大好きだ、て言ってたからさ、思わず買っちゃったの!どう、似合う?」「・・・うん、確かに似合うけど・・・」確かにそのブーツは富美代にとてもよく似合っている、だが礼子の心配は別のところにあった。「でも凄いピンヒールね。それ、歩きにくくない?」大丈夫?今日は多分、大立ち回りが控えているのよ?「うん、それがね、このブーツ、意外と歩きやすいんだ。ヒールが上手く重心の位置にあるせいかしらね、ちょっと位なら走っても大丈夫なほどよ!」ふーん・・・まあ、それならいいんだけどね・・・礼子たちは些か不安げに視線を交わした。

ドライブは比較的穏やかに進んだ。四人を乗せた二台のチェロキーはアクアラインを通って木更津に渡り、そこから湾岸を一周するようにしてお台場に向かって快適なドライブを続けた。そして日が傾きだしたころ、お約束のレインボーブ

リッジを渡っていた。ここまでならどうということはない普通のドライブ、礼子たちも些か拍子抜けするほどだった。だがブリッジを渡りながら、検見川が口を開いた。「今日は楽しかったね。富美ちゃんたちとこんなドライブできて、最高だったよ、また誘わせてよ?」富美代は白い頬を赤く上気させながら答えた。「もちろん!私も先輩とドライブできで最高です!ほんと、絶対、絶対また誘って下さいね!」OKOK,誘ってやるともさ、言われなくてもな。嫌だと言っても誘ってやるよ・・「じゃあさ、最後に俺たちのガレージ覗かせてあげるよ!この車、結構いじってあるだろ?これ全部、自分たちでやったんだぜ。でさ、マンションの駐車場は狭いんでガレージ借りたんだ。そこ、見せてあげるよ。俺たちの城だからさ、滅多に人、連れてかないんだぜ?富美ちゃんたちだけ、特別に招待するよ!」

憧れていた検見川先輩が、私を特別に招待してくれる!富美代は天にも昇る気持ちだった。「わー、嬉しい!見せて見せて、先輩のガレージ、連れてって下さい!ね、礼子、もち行くよね!」「・・・うん、喜んで!」はしゃぐ富美代と対照的に礼子はどこかヒリヒリと引き締まった表情になってきた。・・・ガレージね・・・無意識の内に、礼子は両手首をほぐし始めていた。精神の戦闘準備スイッチが入る。いよいよね。背筋を何匹もの虫が這いまわる。自分の目が吊り上っていくのを感じる。礼子にしては珍しく緊張したせいか、ブーツの中で足がじっとりと汗ばむのを感じる。怖い?不快?いや、むしろ心地良い緊張だった。いつ来るかいつ来るか、今日一日、来い、来るなとアンビバレンツな感情に引き裂かれて来た自分が一点に集束していく快感だった。ジリッ・・・ジリッ・・・礼子の脳裏にふとゴングのイメージが走る。もうすぐ鳴るのね、ゴングが。大丈夫、もう十分に心の準備はできてる。いいわよ、いつでも準備OKよ!

レインボーブリッジを渡ったチェロキーは直ぐに首都高を降り、芝浦の工場街に向かって行く。そしてある工場の前に止まるとシャッターを開け、中に入っていった。中はガランと広い。既にオーナーは倒産した廃工場だった。二台のチェロキーを中に止め、坊野、検見川、須崎、奈良村の四人は先に車から下りた。そして出口に一番近かった須崎が素早く、厳重に入口をロックした。四人は無言のまま、二台のチェロキーを取り囲むように立っている。暫く、沈黙の時間が流れた。

中にいるのは却って不利ね。このままじゃ思うように戦えないわ。「富美ちゃん、下りるわよ。」礼子に促され富美代も車から下りた。見ると玲子も朝子も既に下りている。冷たい空気が流れる。ついさっきまでの和やかムードはもうどこにもない。礼子たちの表情がどんどん険しくなっていく。「な、なに、みんな、どうしたの、怖い表情して・・・せ、先輩、ここ、なんなんですか?ガレージ?でも、ここ、違いますよ

ね?何かの冗談、そう、冗談なんでしょ?私たちを脅かそうとして、冗談なんでしょ!?」検見川は黙ってラークを取り出すと、火

をつけた。「・・・ねえ、先輩!お願い、何とか言ってくださいよ!」検見川はゆっくり富美代の方を振り向き、ゆっくりと近づいてきた。二メートルくらいの距離まで検見川が近づいてきた。「先輩!」富美代の声が祈りにも似た悲鳴に変わって工場に響いた。「アツッ!」

検見川は持っていたタバコを指で弾くかのようにして富美代に投げつけた。思わず振り払ったタバコから飛んだ火の粉が富美代の顔をかすめる。「な、なにするんですか!せ、先輩、ま、まさか!?」「うぜーんだよ、いいかげん黙れ、このクソガキ!」さっきまでとはうって変わった検見川の怒声が響いた。その顔にはもう微笑はなく、凶悪な冷笑が浮かんでいた。「バカかおまえ?この俺が本気でお前のこと、気に入ったとでも思ってんのか?タコ!誰がおめーみてーなションベンくせーガキなんか、相手にするかよ!」「そ、そんな・・・せ、先輩、だ、騙したのね!!!」「騙した?人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ。お前が勝手にのぼせ上がっただけだろうが、バーカ。今日一日遊んでやっただけでもよ、一生感謝してもらわなくちゃあわねーぜ?なあおい?」ゲヘヘ・・・クックックッ・・・ギャハハハハ・・・下品な声で笑っていた坊野たちが大きく頷きながら近づいてくる。「・・・たくだぜ、俺たちSNOW CRACKを一日中引きずりまわしやがってよ、俺たちゃおめーらのパシリじゃねーっつーの!」「たけ―ぜ?俺たちの日当はよ?」「先輩だってよ、いいぜいいぜ、俺たち先輩がたっぷりと人生って奴を指導してやりましょ、体でよ!」下卑た言葉を吐き続ける坊野たちに対し、玲子が妙に冷静に尋ねた。「指導ね。で、こんなところに連れ込んで、私たちをどうするつもりなの?」「決まってるじゃね-か!」坊野が中指を突き立て、お決まりのファックポーズを取った。「てめーら全員、たっぷりと輪姦してやるぜ!?グフフフフ、ここにはビデオも用意してあるからよ、てめーらがよがり狂うとこをたっぷりと撮ってよ、裏ビデオに流してやるぜ!四人分まとめて売りゃ、結構いい値になるだろうぜ?」「オウヨ!でよ、俺たちが十分楽しんだらチームの下の連中にくれてやるぜ。良かったな、てめーら今日から一生、男には不自由しねーぜ!!!」

「イヒッ、イヒッ、イヒヒヒヒッッッ!!!」「ヒャハッ、ヒャハハッヒャハハハハハッッッ!!!」二階の小部屋の窓から作業場を見下ろしながら、慎治たちは必死に笑いを噛み殺していた。声を出しちゃいけない、大声出しちゃ、礼子さんたちに気付かれる。だから大声あげて笑い、踊り回って喜びに浸りたいのを必死で抑えていた。「・・・ヒ、ヒヒッ、やった、やった!富美ちゃん、泣いてるよ!ぼ、僕を、僕を苛めたバチが当たったんだ!」「ブヒャヒャ

ヒャヒャーッ!玲子さんも朝子も、もうすぐレイプされちゃうんだ!ざまーみろ!散々人のこと、苛めやがって!他人のことを鞭で叩いたりおしっこ飲ませたりできる女なんて、いつかはこういう目に会うんだーっ!」「ざまー見ろ!礼子さん、いつまで取り澄ましていられるかなー?もうすぐ、礼子さんも、礼子さんもグッチャングッチャンに姦られるんだよーん!!!」顔中に下卑た笑いを浮かべつつ、慎治たちは復讐の喜びに打ち震えていた。

いつ以来だろう、こんなに心の底から笑っているのは。慎治たちは入学後、間もなく礼子たちに苛められ始めていた。毎日毎日、女の子に苛められ、辱められる。いつしか笑顔などというものは忘れてしまっていた。ああ、笑う、ていうのはこういう感覚だったんだ。俺たち、笑うのは鞭を許して、もう苛めないで、て卑屈にお追従笑いを浮かべる時だけだったもんな。笑うって、こんなに楽しいことだったんだ。信次の脳裏を玲子たちに苛められた辛い記憶が走馬灯の様に横切る。引っ叩かれ、蹴られ、唾を吐き掛けられ、靴を舐めさせられ、オカマを掘られ・・・鞭で打たれ、おしっこを飲まされ・・・辛い記憶が次々と甦る。だが不思議といい気分だった。そりゃ当然だよな、だって、俺たちをこんな目に合わせた玲子たちが、これからその報いを受けるんだもんな。ヒッヒッヒ!泣け!喚け!もがき苦しめ!俺たちが味わった苦痛の万分の一でも味わえ!俺たちのこの世界に決定的に足りなかったものは・・・俺たちが心底求めていたものは・・・只一つ、玲子たちの泣き顔だけ・・・ああ、癒される。心の傷が癒えていく・・・お前たちも一緒に地獄に堕ちろーっ!復讐の快感は信次に何とも言えない無上の解放感を与えていた。ああ、最高だ・・・万歳、万歳、復讐万歳!

余りのことに富美代は呆然としていた。富美代の頭の中を検見川たちの声が飛び廻る。中学生の頃の検見川の思い出が飛び廻る。今日の楽しい一日が飛び廻る。現実認識を失った富美代の両目から涙がツッと溢れた。「キャハハハハッ!泣いてやんの、このガキ、駄目だぜ、泣いたって許してなんかやらないよーん!」検見川の下卑た声と殆ど同時に、パーンと乾いた音が響いた。礼子が富美代の頬を思い切り平手打ちした音だった。「分かった?富美ちゃん、目、覚めた?」頬を走る痛みにより現実に引き戻された富美代の肩を礼子が激しく揺さぶる。「これが富美ちゃんの憧れていた先輩の正体よ。SNOW CRACK,最悪チームのサブ、女の子を騙して輪姦すのが専門、ていう最低男、それが検見川の正体なのよ!」頬の痛みと礼子の凛とした声が、富美代の意識を現実に引き戻していく。そうよ富美ちゃん、私たちの方に帰って来て!富美代の瞳に意識が戻ってきたのを見て、玲子も続けた。「分かる、富美ちゃん?あいつらはね、富美ちゃんをダシにして、私たちをレイプするために汚い罠を仕掛けたのよ。それで

もいいの、富美ちゃん?こんな目にあわされて、黙って泣いている富美ちゃんなの!?まさか、このまま大人しく輪姦されるなんて気、あるわけないよね!?そんな富美ちゃんじゃないよね!?!?!?」

無理矢理現実に引き戻された富美代の意識は乾いていた。悲しみ、後悔にすすり泣いて自我を虚空の彼方に失った富美代はもうどこにもいない。乾ききり、ぽっかりと空虚になった富美代の精神を、虚無の暗黒の空間を、唯一つの感情、怒りが満たしていく。玲子の言葉は富美代の精神に満ち満ちたどす黒い感情に、富美代自身形容し難い、強いて言えば只一つの言葉に集約される感情、そう、怒りに炎を灯した。炎は見る見る内に大きく、激しく燃え上がった。ワナワナ・・・下を向いた富美代の肩が小刻みに震え始めた。「・・・先輩・・・ゆる・・・さない・・・」富美代の悲しみは怒りとなり、怒気は闘気となって急速に膨れ上がっていく。日頃クールな、冷たいとも評される富美代の怒り、それは真っ赤を通り越して更に熱気を増し青白い炎となって燃えさかっていく。何、この闘気、殆どオーラじゃない!?こんな闘気、見たことないわ!礼子たちでさえたじろぐほどの勢いで、富美代は闘気を全身から発散させている。俯いていた富美代がゆっくりと顔をあげた。ゾクッ・・・思わず礼子の背筋に寒気が走った。涙を流しながら、美しい顔全てに怒りと憎悪と闘気を満ち溢れさせた富美代の美貌、それは人間の表情ではなかった。それは、そう、夜叉、と呼ぶしかないものだった。

それが検見川には気に入らなかった。なんだ、このガキ、もっと泣き喚きやがれよ、でないと犯りがいがねーだろーがよ?検見川は内心、富美代の余りに凄まじい怒りの表情に半ば気圧されていた。今まで連れ込んだ女たちはみんな、ただ泣いて許しを乞うだけだった。怒りの富美代とクールな礼子たち、予想外の反応に戸惑いながらも、まだ検見川は何も分かっていなかった。あんだ、盛りあがんねーな、ったくよ。まあいいか、どうせ輪姦してやりゃ、嫌でも泣き喚くんだからよ。だからガキは困るんだよ。「何怒ってんだ、コラ?ゆるさねーだと?あ?そりゃこっちのセリフだっつーの、たく、ガキの分際で手焼かすんじゃねーよ。オラ、大人しく服脱げっつんだよ?!それとも、引っぺがしたろーか?」無造作に検見川は手を伸ばしてきた。パシーン!「ハッ!」「グアッ!」富美代は下から検見川の手を跳ね上げると、返す刀で鳩尾に思いっきり当身を叩き込んだ。不意をつかれた検見川は息が詰まり、思わずうずくまるようにして後ずさった。

「ヒャハハッ!おいケミ、ダッセーッ!んなチビにやられるなんてよ、焼きがまわったかー?手、貸したろか?」検見川の失態を坊野が指差して大笑いした。検見川の頭に血がのぼる。「るせーよ!?ちと遊んだだけだろーが!おい、富美代、てめー、んなことしてどうなるか、分かってんだろーな、コラ

!後悔すんじゃねーぞ?」呼吸を整えると検見川は両腕を広げ、飛び掛るように富美代に掴み掛かっていった。検見川はまさか、富美代が合気道を中心に護身術を本格的に学び、十分な戦闘能力を備えているとは想像もつかなかった。単に不用意に出した手を撥ね退けられ、たまさか何かの弾みでボディーに一発食らった、程度にしか考えていなかった。だから再び富美代に掴み掛かろうとしながらも、未だ十分な気構えは出来ていなかった。検見川は愚かにも、未だ本気の喧嘩ではなく、単なるレイプのオードブルとしか考えていなかった。その油断は全身あちこちに巨大な隙を作っていた。

一方、富美代は不思議な気分だった。怒っている。今までの人生で最高に怒っている。怒りで気も狂いそうなほどだ。だが同時に不思議な位冷静な自分を感じていた。首から下は身の置き場もないほど熱く燃え上がっているのに、頭だけは妙に冷静だった。富美代は検見川が迫るのを見ても、怖くもなんともなかった。許せない・・・私を騙した・・・先輩、私だけじゃない、何人も何人もこうやって騙してレイプしてきたのね・・・最低・・・激しい憎悪と強烈な嫌悪感、軽蔑が富美代の全身を貫く。余りの嫌悪に口の中に自然と唾が涌き出るのを感じた。迫る検見川にどう対応する?ファーストアタックの後の攻撃を有利に進めるために、一番有利な手段は何?コンマ何秒もない、この一瞬の間に富美代の頭はコンピューターのように素早く働いた。うん、これがいい。この攻撃、先輩には予想もつかないはずよ。検見川の手は富美代の間近に迫っていた。「オラッ!」検見川は左手で富美代の髪の毛を掴み、引き摺り回しながら右手で富美代の顔面を殴るつもりだった。女の子の顔面を殴ることに躊躇を覚えるような検見川ではない。だが無造作に伸ばした左手を富美代に下から掴まれ、富美代を引き摺り回すどころか逆に腕を伸ばした自らの勢いそのままに前方に姿勢を崩され、引き摺られていく。「アオッ!」態勢を立て直す余裕もなく、蛇のように絡みついた富美代の手に手首の関節を極められ、更に外側に捻り上げられた。検見川の手首、肘、肩の関節に電流が走る。靭帯が悲鳴を上げる。「アウチッ!」検見川は余りの痛さに思わず悲鳴を上げてしまった。検見川の意識の全てが左手に行き、自由な右手も無意味に宙をさまようだけ、全身無防備状態だ。腕を引き摺られて反射的に腰を屈めた検見川の、戸惑ったような顔が富美代の方を見上げる。富美代はそのタイミングを逃がさなかった。

「ペッ!ペッ!」桜色をした富美代の美しい唇が急速に盛り上がり、白い矢のように大きな唾の塊を二発吐き出した。ビチャッペチッ!「アウワッ!」宙を切り裂いた唾は狙い過たず、検見川の両目に見事に命中する。礼子たち四人の中でも富美代はこと、唾に関しては間違いなくNO.1のテクニックを誇っている。射程距離は優に2メートルを超え、更に狙

った的にピンポイントで命中させる見事なコントロールと、唾を細かい水滴に分散させず、大きな塊のまま飛ばせる巧みなテクニックを併せ持っている。実戦の最中とは言え検見川との距離は今、1メートル程度に過ぎない。富美代にとっては唾を完璧にコントロールして吐き掛けるのに、何の造作もない間合いだ。左手の痛みに目を大きく見開いていた検見川は視界を完全に富美代の唾に塞がれてしまう。唾の大部分はゆっくりと両目から溢れ出し、頬を伝って流れていくが検見川の視界は泡の多い富美代の唾に白く曇り、霞のかかったような状態になる。屈辱を与え、挑発して頭に血を上らせると同時に視界を奪い、戦闘能力を半減させる。嫌らしい位に合理的な富美代の攻撃だった。唾をも武器として使う、流石に唾吐き名人の富美代らしい創造力に溢れた攻撃だった。精神と肉体と、富美代の唾攻撃は予想以上の、見事な効果を発揮した。

思わぬ、想像もしなかった方法での反撃に検見川は思いっきりたじろいでしまったが次の瞬間、激しい怒りに完全に飲み込まれてしまった。「て、てめえ・・・よ、よくもやりやがったなーっっっ!!!」唾を、女の子に唾を吐き掛けられた、ということに漸く気づいた検見川は凄まじい声で絶叫すると同時に手を捻られた痛みをも忘れ、動きを封じる富美代の腕を力任せに振り払おうとした。愚かな選択だ、唾を吐き掛ける、という富美代の挑発にまんまと乗り、検見川は完全に自分を見失っていた。ビチッ、という破滅的な音を肘が発したのにも気づかない。完全に極められた腕を力任せに振り払ったおかげで検見川の左肘の靭帯は完全に伸び、使い物にならなくなってしまった。ふん、馬鹿な先輩、自分で肘壊しちゃって。ま、いいわ。いずれにせよこの左腕、もう用済みね。富美代は冷静に判断して不要になった検見川の左手を解放し、一旦間合いを取る。左腕を代償としながらも、漸く自由を取り戻した検見川は思いっきり体を後ろに捻り、力任せに右ストレートを繰り出した。視界を塞ぐ唾を拭うのも忘れて大振りな、雑なこと極まりないパンチを。全力でのパンチだ、確かに威力はあるだろう。だがそれは当たれば、の話だ。大振りで簡単に起動が読める上に、唾が目に入り、視界が霞んでターゲットの富美代の姿がぼんやりとしか見えない状態では狙いもいい加減極まりない。富美代は余裕でそのパンチを見切っていた。相手に余裕を持たれる。実戦での必敗パターンだ。

富美代は殴りかかる検見川の右手を左手で払いながら右手で肘を掴み、体を捻って勢いを受け流す。「アオッ・・・」唾越しにぼんやり見える富美代の姿が回転すると同時に、ターゲットを失った自らの必殺パンチに引きずられ、検見川はたたらを踏む。そして富美代は検見川を引き摺り回しながら完全に腕を極め、更にその腕を引き込み、自分の背中越しに物の見事に検見川の体を宙に舞わせた。検見川の、ぼんやりと唾に霞

んだ視界が急速に回転し、天地が逆転する。教科書のような見事な投げが決まる。だが、そこからが教科書とは違った。道場では相手が怪我しないように、更に相手を回転させて背中から落とす。だが富美代は検見川の体が宙を舞っている、まさにその時に膝を折り、両手の動きを連動させて真下に引きずり落とした。「ガアッ!!」受身の取りようがない。検見川はまともに脳天から、まっさかさまにコンクリートの床に叩きつけられた。頭蓋骨や首はかろうじて折れなかった。だがまともに頭を強打し、意識が掠れる。完全に無防備状態となった検見川に富美代は冷静にとどめを刺した。腕を極めたまま、大の字になってピクピク痙攣している検見川の首、耳の下辺りに再び強烈な当身をめり込ませ、完全に失神させた。

富美代が検見川を打ちのめしているのとほぼタイミングを同じくして、朝子は須崎と対峙していた。須崎はSNOW CRACKではNO.4だが、身長は180センチを超え、四人の中では最も長身だった。一方、朝子は156センチしかない。身長差は30センチ近い。向き合いながら須崎は余裕綽綽だった。喧嘩の際、長身の須崎は基本的に相手を見下ろして戦うことが多い。朝子は自分より遥かに小さい上に、なんと言っても女だ。喧嘩にもなりはしない。ま、多少は抵抗するかもしれないけど、二、三発引っ叩けば大人しくなるわな。どうやって朝子を倒すか、なんて全く考えてすらいない。後のレイプのことだけを考えていた。今日は獲物が四人もいるんだからな。たっぷり楽しめるぜ・・・須崎は朝子が抵抗するとは、想像すらしていなかった。ましてや、自分が身長の低い相手を得意とするのと同様、朝子にとってはむしろ自分より長身の相手とのファイトの方が慣れていて手が合う、等とは想像もつかなかった。油断しきっていた須崎は、小首を傾げ、キョトンと大きな瞳で無表情に自分を見つめる朝子を、いつも自分がレイプしてきた女の子と同じくショックに動転して半失神状態なんだろう、と気軽に考えていた。玲子はチラリと自分の横にいる朝子の、この無表情を見てフッと安心したような微笑を一瞬浮かべた。いいわ、朝子、落ち着いてるみたいじゃない。あの無表情が朝子の上手いところなのよね、何考えてるのかこっちは読めなくて、実はこの子、何にも考えてない、思考停止状態じゃないの、なんてつい油断しちゃうのよね。実際にはあの子、冷静にこっちをじっくり観察してカウンターを狙ってるんだけどね。フフ、須崎さん分かるかしら?油断して迂闊に近づくと、朝子の思う壷よ、朝子、後の先の名人なんだからね。まさに玲子の読み通り、須崎は既に朝子の術中に嵌っていた。朝子が無表情の裏側で虎視眈々と須崎の隙を、懐に飛び込むタイミングを図っているなど、全く気づかなかった。「おらチビ、ぼけっとしてねーでさっさと脱ぎな!後がつかえてるんだからよ!」無造作に須崎が両腕を

伸ばし、朝子の肩を掴もうとした瞬間、朝子の瞳にキラッと電光が走った。

「ハッ!」裂帛の気合と共に朝子がダンッと鋭く踏み込む。須崎があっと思う間もなく一瞬で間合いを詰めた朝子は左足をグッと踏み込みながら右足で思いっきり地面を蹴る。蹴り足の勢いに腰の回転そして肩の回転を加え、猛スピードに加速された右肘をがら空きの須崎の鳩尾に、アッパーカット気味に突き上げながら思いっきり叩き込んだ。鋭い踏み込みに一瞬、40キロ前半の朝子の体重が大幅に加算されて80キロ台に増幅される。グシャッ・・・うん!手応えバッチリ!内臓に肘がめり込む感触が朝子を興奮させる。猿臂でのフルコンタクトなんて、危険すぎて普段は使えないもんね、一回思いっきりやってみたかったんだ!「カッ・・・ガファッッッッ!!!」内臓が破裂したかのような激痛に須崎は呼吸を失い、口をパクパクさせながら体をくの字に折り、腹を押さえながら真後ろによろけて行く。

チャンス!逃がさないわよ!朝子は両腕を上げ、油断なくガードを固めながら追撃する。須崎の顔面はがら空きだ。今打てば入りそうね。だが朝子は慎重だった。直線的に追わず、左右に小刻みに体を揺らしながら軽やかなステップで追い詰める。そして、まだ後退を止められない須崎の右足が上がり、全体重が左足にかかった瞬間を狙って、朝子は得意のローキックを放った。「ハッ!ハイッ!」須崎の腿、膝の外側に朝子の純白のウエスタンブーツが襲い掛かる。「グアダッ!」新たな痛みに須崎は思わずその場に立ち止まり、左足を両手で押さえる。そんな隙を見逃す朝子ではない。隙あり!「エイッ!」須崎を蹴り付けた右脚を繰り戻すと同時に更に追い詰め、動きの止まった須崎の眼前で今度は朝子の左脚が上がる。ぐっ、顔を蹴られるか・・・本能的に須崎は両手を上げ、必死で顔面をガードする。だが朝子がそんな単純な攻めをする訳がない。猫が鼠を弄ぶように、朝子は焦らず、じっくりと須崎にダメージを与え、戦闘能力を奪うつもりだった。焦って止めを刺しに行く、などという不用意をする訳がない。馬鹿ね、須崎さん、あなたたち大柄な人の弱点は足とボディ、身体の下側にあるのよ、知らなかった?

須崎のガードが上がりかけるのを嘲笑うように、朝子の左回し蹴りは須崎の左膝を、今度は内側から襲った。「アダッ!」外側に続き、内側からも痛めつけられて須崎の左足全体に耐え難い痛みが走る。こうなるとなまじ大柄でウエイトがある分、却って足にかかる負担は大きい。ヨタヨタとバランスを崩しながら後退した須崎は左足の痛みに耐えかね、思わず全体重を右足にかけ、殆ど片足立ちになりながら左足の腿、膝を押えてしまった。致命的なミスだった。須崎とて十二分に喧嘩慣れしている身、普段だったらこの程度のダメージでひるみはしない。だが相手は女の子、しかもチビのやせっぽち、と完全に油断していた分、心の準備が出

来ていなかった。その油断の分、肉体的以上に精神的な動揺が大きく、朝子の、今自分が喧嘩している相手の目の前で片足立ちになり、動けない状態になってその上に両手で足を押えてしまう等という、絶対にやってはいけないミスを犯してしまった。

その隙を冷静な朝子が見逃すわけがない。朝子の右脚が上がる。狙いは・・・須崎の右足だ。今、痛めつけた左足を更に狙うのは素人、全体重が掛かり、動かせない右足を狙うのがプロの選択だ。朝子は一瞬の躊躇もなく、全力で右の前蹴りを放つ。ガッ・・・純白のウエスタンブーツの硬いヒールが自らの体重に固定され、逃げ場のない須崎の右膝に食い込む。やった!手応え十分!私、ローキックは自信あるのよね。それに今日は硬いブーツを履いてるんだし、ヒールで直撃すればローでも十分に一撃必殺になる、と思ったけど、ビンゴね!流石は玲子ね、今日はヒールの硬い、このウエスタンブーツ履いてくるのよ、このブーツが朝子の武器になるんだからね、て言われてたけど、ほんと、玲子の読み通りね。須崎さん、このブーツが凶器だなんて、考え付きもしなかったでしょ?狙い通りだった、只でさえ威力十分な朝子のローキックだ。それに硬いウエスタンブーツのヒールがプラスされれば、これは最早凶器に匹敵する。「ギアアアアッ!!!」膝の皿にヒビでも入ったのか、余りの激痛に須崎は悲鳴を上げながらその場にうずくまってしまった。「あ、あああ・・・!」声にならない悲鳴をあげながら、須崎は片膝をつき、砕かれた右膝を両手で抱え込んだ。だが朝子の時間はここからだ。

「OK,行くよ!」朝子は初めて、動きを止めて須崎の正面に立つ。痛みに喘ぎながら須崎は必死で顔を上げる。ついさっきまでは見下ろしていた朝子の顔が、今は自分より遥か上にある。そして無表情だった顔には今や余裕と優越感が満ち溢れ、勝利を確信した残酷な微笑が浮かんでいた。「や、やめ・・グハアッ!!!」須崎が哀願すらできない内に、朝子の鋭い蹴りが襲い掛かる。右の回し蹴り、必死で手を上げガードするが、空中で一旦停止した朝子の右脚はそのまま宙で回転し、下から爪先で須崎の左肘を蹴り上げる。「イダッ!」肘から電流を流されたような、痺れと熱感を伴った痛みが須崎の全身を走る。ブーツの硬い爪先でのトーキックは須崎の腕に激痛を刻み込み、無慈悲にガードを吹き飛ばしてしまった。やった!やっぱブーツ履いてるから、トーキックもOKね!トーキック、これも普段は絶対に使わない技だ。危険、というだけではない。貫手やトーキックのような禁じ手は、いくら威力抜群の危険な技とは言え自らの拳や足を鍛えるのに相当な苦痛と時間がかかる。美貌を誇る朝子にとって、そんな血の出るような努力をしてマニキュアやペディキュアさえできない拳や足を作る気は毛頭なかった。だが今はブーツを履き、硬いトーに自らの柔らかい爪先が守られている。遠慮な

く、自らの足を痛める心配なく、心置きなく思いっきり、トーキックを放てた。朝子はブーツを履いているメリットを嫌らしい位、最大限に活用していた。そして一方の須崎の肘は薄いジャケットを着ただけだ。猛スピードで蹴り上げられるウエスタンブーツの爪先に対抗できる訳がない。須崎の左腕は上空に蹴り上げられ、同時にバランスを崩して右のガードも下がってしまう。

そして無防備になった顔面に、遂に朝子の蹴りが襲い掛かった。左の回し蹴りが須崎の右頬を捉える。「ゲハッ、ゲフアッッ!」朝子の左脚は八の字を描き、返す刀で須崎の左頬を踵で蹴りつける。ブーツでの往復ビンタに須崎は口からだらしなく涎をたなびかせながら顔を左右に弄ばれる。「いい顔ジャン!ほら行くよ!」そして左脚を引き寄せた朝子は須崎の鼻めがけ、ストレートに前蹴りを繰り出す。朝子の美しい脚線がスッと延びきった瞬間、ヒールにグシャッと気持ちいい感触が走った。「ブギューャァッッッ!!!」鼻を砕かれ、須崎は床をのた打ち回った。うん、やった!最高の感触に朝子は勝利を確信した。だが流石、と言うべきだろうか。暫くのた打ち回っていた須崎がよろよろと立ち上がってきたのだ。

「こ、このグァクィャア゛―――・・・ぶ、ぶっくぉるぉじでやる・・・」須崎は猛烈に怒っていた。自分にほんの一瞬でこれだけの大ダメージを与えた朝子に。そして油断しきって見事にしてやられた自分自身に。こ、こんなガキに、年下の、しかもチビの女に、やられてたまるか・・・その怒りが須崎の全身に大量のアドレナリンを駆け巡らせていた。右膝、左肘にはヒビが入り、鼻は見事に潰れていた。普通だったら動ける状態ではない。だが極度の興奮が須崎の全身を突き動かしていた。「こ、殺す・・・ぶっ殺してやる・・・」須崎はよろよろと朝子に近づいてくる。いくら興奮により動いている、とはいっても膝にヒビが入っているのだ。そう素早くは動けないし、左手も使えないようだ。完全にKOした、と思った須崎が立ち上がったのを見て一瞬驚いた朝子だったが、須崎がふらついているのを見て直ぐに余裕を取り戻した。なーんだ、やっぱり効いてるじゃん。まあ、しゃーないわね。止めを刺してあげる。

「あーあ、立っちゃって、あんまり無理しない方がいいんじゃない?鼻、きっと折れてるよ?」小首を傾げながらにっこり微笑む朝子の笑顔が、須崎の怒りに更に火を注ぐ。こ、こん畜生!余裕こいてんじゃねえ!!!「ぶ、ブッグォルォズ!!!」全力で須崎は殴りかかった。渾身の右ストレート、女の子の顔面めがけて殴りかかることに何の躊躇もない。だが右足に大ダメージを与えたから蹴りは使えない、更に左手も砕いてある、となればあるのは右のパンチだけ、と朝子は自信を持って読みきっていた。そして須崎のパンチは正に、読みどおりだった。ブーン、それなりのスピードを持ったパンチが迫る。まともに当たれ

ば朝子はひとたまりもない。だが当たれば、の話だ。一歩踏み込んだ朝子は左手を須崎の内側から振り上げて須崎の右手首のあたりに当て、捻りながら左手、更に全身をねじりこんで須崎の起死回生のパンチをいともた易く、受け流していく。そして受け流しながら、朝子が沈み込んでいく。須崎のパンチが沈み込んだ朝子の頭の上を通過していく。朝子の左手は今や須崎の右の二の腕あたりを握り、前方に引き込んでいる。朝子の上体が地面とほぼ平行になる。な、なんだ、何をする気なんだ?

次の瞬間、真下から白い影が猛スピードで迫ってきた、と思うと同時に須崎の顎に物凄い衝撃が走った。ガヅッ!!!須崎は声も出せずに首を跳ね上げられ、仰け反りながら昏倒してしまった。朝子は体を倒し、低い位置から180度開脚した右脚を突き上げ、須崎の顎を蹴り上げていたのだ。中国拳法で言う、天空脚に似た技だった。小柄な体を生かして相手の懐に潜り込み、柔軟性を生かして真下から蹴り上げる。両腕で相手を引きずり込んでいるため、相手にとっては朝子の脚は死角になり、見えない。その死角から腕の三倍の力を持つ脚がアッパーカットで襲い掛かるのだ。ましてや硬いブーツのヒールが直撃するのだ、その威力は筆舌に尽くしがたい。須崎は物も言えず、白目を剥いて昏倒してしまった。首が折れなかったのが不思議な位の、凄まじい威力の蹴りだった。

「ケミ!」「須崎!」坊野と奈良村の声が同時に響いた。う、嘘だろ・・・坊野は目の前の光景が信じられなかった。極悪チームとして名を馳せたSNOW CRACK、そのNO2とNO4が一瞬にしてKOされてしまったのだ。しかも相手は自分たちがレイプしようと誘い込んだ相手・・・年下の女の子にだ。俺はラリってるのか?だが検見川と須崎が大の字になって気絶しているこの光景は、紛れもない現実だった。く、糞っ垂れが・・・坊野と奈良村が反射的に富美代たちに襲い掛かろうとした、その時だった。「待ちなさい!」礼子の凛とした声が響いた。「相手が違うわよ。貴方たちの相手は私たちがしてあげる!」フフ、礼子の端正な顔に凄絶な微笑が浮かんだ。「貴方たちも二人、私と玲子も二人、そう、タイマン、てやつ?二対一で苛める、なんてことはしないであげるから、安心してかかって来なさい!」

た、タイマン?苛めないでやる?こ、このガキ、舐めやがって!!!坊野は全身の血液が逆流するのを感じた。その時に坊野が頼ったのは自分自身の肉体ではない。武器だった。坊野は何の躊躇いもなく、自分のチェロキーから自らの獲物、金属バットを取り出し、身構えた。最早相手が女の子だろうが、丸腰だろうが関係ない。獲物を使って叩きのめすつもりだった。同時に奈良村も隠し持ったナイフを取り出し、礼子たちを威嚇するように身構えた。だが礼子たちはバットにナイフ、坊野たちが取り出した獲物を見て、彼らの期待に反して大笑いを返し

てきた。「アハハ!なーんだ、そんなモンしか持ってないんだ!」玲子の嘲るような笑い声は坊野たちを怒らせる、と言うより戸惑わせた。「て、てめえ!こ、このナイフが見えねーのか!ザックリ逝ったろか!」反射的に安っぽい言葉で凄む奈良村に玲子は最早、苦笑を浮べていた。「・・・ハイハイ、私、視力は良いからね、それがナイフだ、てこと位、良く分かるわよ・・・で、私たちの武器が何かは分かってるの?」

言いながら玲子はバックルを外し、自らのジーンズからシュルッと黒いベルトを抜き取った。傍らでは礼子もフェイクレザーパンツから茶色いベルトを抜き取っていた。パーン!礼子が二つ折りにしたベルトを鳴らした。「うーん、折角この私たちが相手してあげるって言うんだから、もうちょっと凝った武器出して欲しかったけどね。そんなチープな武器なんかを、まあ得意げに出しちゃって、恥ずかしくない?まあいいわ、貴方たちじゃ所詮、その程度が限界かしらね。さあ、かかって来なさい!」右手にベルトを握り、左手の人差し指でクイクイと挑発する礼子の姿に、坊野たちの頭に血がのぼる。な、何だ、このガキ!か、かかって来なさい、だ?な、舐めやがって!!!坊野も奈良村も、自分たちが切り札のつもりで出した獲物に礼子たちが全くビビらず、却って余裕を見せていることに完全に逆上してしまった。その余裕の根拠は何か?と考える余裕等、全くなかった。礼子たちにとって、坊野と奈良村が取り出した獲物は全く脅威にならなかった。実のところ、礼子たちにとっての心配材料は唯一つ、坊野たちが拳銃を持っている事だけだった。確率は低い。恐らく殆どゼロに近い確率だ。だが、もし持っていたら・・・それに対する備えも一応していたが、それだけが心配だった。だからナイフやバットなどというものは礼子たちにとって、なんの脅威でもない。逆に坊野たちは礼子たちのベルトを余りに過小評価していた。そもそもベルトを武器としてすら認識していなかった。しなやかで強靭な革ベルトが、礼子たちのような熟練者にかかればどれ程強力な武器になるか、身を持って味わうまでは全く想像もつかなかった。

先に動いたのは奈良村だった。「こ、このガキ・・・ベルトが武器だー?てめえは女王様ごっこでもやってんのか、こら!?」右手にナイフを握り、奈良村が間合いを詰めた瞬間、パシーン、痛っ!カラーン、礼子のベルトが一閃し、奈良村の右手を打ち据える音と右手をしたたかに打ち据えられた奈良村の悲鳴、そしてナイフが床に転がる乾いた音が殆ど同時に響いた。打ち落とされたナイフはカラカラと玲子の足元に転がっていった。な、なんだ、何が起こったんだ?玲子が殆どスナップのみで放ったベルト鞭は予備動作が極端に小さく、その癖非常なスピードを兼ね備えていた。奈良村は自分がベルトで鞭打たれた、ということすら、一瞬把握できなかった。ベルトを握った玲子の右手が

ふっと動いたと思った瞬間、自分の右手に熱を伴った衝撃、今まで全く味わったことのない痛みが走り、頼みの綱のナイフを叩き落していた。玲子のベルトの動きを奈良村のプアな動体視力で捕らえることは到底不可能だった。

右手を抑え、思わず呆然とする奈良村に玲子の嘲笑が追い討ちをかける。「アハハ、どうしたのかしら坊や、鞭一発でもうお終いなの?そんなんじゃ、私をレイプするなんて到底無理ね。あ、そうか、鞭一発だけでイタイイタイ、て泣いてる坊やなんか、どうせ根性なしのタマ無しクンだもんね、私をレイプするなんて、端からできっこない見栄っ張りだったのよね。やーいやーい、タマ無し、タマ無し!!!」「て、てめえ!!!な、なめ、舐めんじゃねえー!!!」珍妙なリズムを付けて囃したてる玲子の挑発にすっかり頭に血が上った奈良村は、今にも玲子に飛びかかろうとしていた。だが、辛うじて奈良村の理性を保たせたのは、皮肉なことに自分が落としたナイフだった。奈良村のナイフを玲子はしっかりと黒いブーツで踏みしめ、奈良村が拾えないようにしていた。く、クソ・・・ナイフ、ナイフさえあれば、今度こそぶっ刺してやる・・・なんとか、なんとかナイフを取り戻したい。

一方ナイフを拾いたいのは玲子も同じだった。見たところ奈良村のナイフは軽く、投げナイフとして使えそうだった。間合いを詰めてスナップショットで投げたら、まずは避けられる心配はないわね。だけど・・・玲子は冷静に奈良村との間合いを図った。この間合いじゃ、迂闊にしゃがんだらタックルで突っ込まれる危険があるわね。しゃがんだときに突っ込まれたら、避けられないかも知れないな。玲子は次の一手を慎重に考え、推し量るように奈良村の目を見た。その視線は玲子の方を向いているように見えるが、半分以上はナイフに視線も意識も行っている。ふーん、そんなにナイフに執着するんだ。よし、いいわ。このナイフ、何も私が無理して直接拾う必要はないわね。この手で行こう!奈良村の行動を読みきった玲子は、更に大胆な挑発に出た。

「なーに、タマ無しクン?そんなにこの安物ナイフを返して欲しいの?」グリグリとブーツの靴底でナイフを踏み躙りながら玲子が嘲る。「いいわよ、こんな安物、返してあげる。おまけに、お姉さんの唾もつけてあげましょうねー!」玲子は二、三度唇をクチュクチュと動かし、たっぷりと唾を貯めるとブーツをどけ、ナイフの柄にぺっと唾を吐き掛けた。ビチャッと唾がナイフの柄を覆う。「ほーら、お姉さんの唾つきナイフよ、よかったわねー、返して貰えて!」嘲笑りながら玲子はナイフを奈良村の足元に蹴ってよこした。「ぐ、こ、この野郎・・・」奈良村は一瞬躊躇した。唾まみれのナイフ。普段だったら触りたくもない。だが今は・・・悠長に拭いている暇などないことは一目瞭然だ。半ば目をつぶる思いで奈良村はナイフを拾い上げた。ヌルッ・・・右手に玲

子の唾の感触が走る。き、汚たねえ、こんな汚たねえもん、触らせやがって!!!「あーら、おっどろいたー!唾掛けられたナイフも拾っちゃうんだー!さっいてー!やっぱ、タマ無しクンは違うわねーえ!ほーらタマ無しクン、そんなに唾が好きだったら、こっちにお顔出してごらん、お姉さんが唾ペッペしてあげるわよーっ!」唇を突き出して白い唾を浮かべ、ここぞとばかりに挑発する玲子に奈良村の僅かな理性は完全に消し飛んでしまった。

「て、て、てめえーっっ!こ、殺す、ぶっ殺す、カンペキに殺す!!!」絶叫しながら奈良村は玲子の唾にまみれたナイフを振りかざして襲い掛かった。最早戦術も何もない。闇雲に、ただ力任せにナイフを振り回しながら玲子の顔めがけて切りつけた。愚の骨頂だ。ナイフは日本刀ではない。ナイフの戦闘法はあくまで、刺すのが基本だ。切るのは誉められた使い方ではない。大型のブッシュナイフならともかく、刃渡りが短いジャックナイフでは切りつけようとしたらリーチの短さから、威力半減だ。しかも大振りに大上段から振り下ろしたのでは隙だらけ、玲子のベルトに絶好の標的を提供するだけだった。

フン、かかったわね。馬鹿ね、私がわざわざナイフに唾吐いた理由を考えようともしないなんてね。そんな低脳じゃ、私とやりあうには100億万年と3日は早いわよ!玲子は冷静に奈良村の袈裟懸けの第一撃、バックハンドの第二撃を避けながら完全に間合いとスピードを見切った。そして再び大きく振りかぶった第三撃、奈良村がナイフを振り下ろすと同時に玲子はすっとステップバックした。同時に玲子のベルトが唸る。パシーンッ!今度は下から振り上げた玲子のベルトはまたも見事に、奈良村の右手を打ち据えた。「ッアツ!」いくら固くナイフを握っていても、ベルトで打たれた激痛にはかなわない。しかも奈良村のナイフの柄は玲子の唾まみれだ。まだ濡れている柄はいつもより遥かに滑りやすい。おまけに唾に触る嫌悪感から、半ば無意識に近いが奈良村はナイフのグリップがかなり甘くなっていた。これでは一溜まりもない。右手こそそのまま余勢で振り下ろしたものの、頼みの綱のナイフはいとも簡単に玲子のベルトに弾き出されて跳ね上げられ、クルクルと回転しながら宙を舞った。「ほら、大事なナイフなんでしょ?返してあげるわよ!」動体視力、反射神経においては奈良村を遥かに上回る玲子だ、主の手を離れ、クルクルと宙を回転するナイフに素早く左手を伸ばし、最適の角度でナイフの柄をキャッチする。最適の角度、つまり投げつけるのに最適の角度でだ。

ナイフをキャッチすると同時に玲子は左手をしなやかにくねらせ、スナップを効かせてナイフを投げつける。ザビュッ!「ギアアッッッ!!!」玲子のナイフは狙い違わず、奈良村の右足甲に突き刺さった。武道と鞭で鍛えた玲子は完全な両利きだ。左手のスナップも、並みの男を遥かに上回る。銀色の軌

跡を描いた玲子のナイフは奈良村の靴を貫き、右足甲を見事に貫通して足の裏に切っ先が顔を覗かせる程、深深と突き刺さった。「ガアッッッ!」野獣のような悲鳴をあげ、奈良村は反射的にナイフを抜こうと蹲ってしまった。深深とナイフを突き刺された衝撃と激痛に、奈良村の頭から玲子は完全に消え去っていた。痛い、痛い、いてえようーーお!!!こんなチャンスを逃がす玲子ではない。奈良村が蹲った瞬間、玲子の長い右脚が閃光のように空を切った。「ハッ!」烈昂の気合と共に玲子は右跳ね蹴りを繰り出した。しかも通常、跳ね蹴りは足の甲の部分で蹴るのだが、今日はブーツを履いている。爪先は硬い皮革に保護されている。朝子と同じく、玲子もブーツを武器としてフルに活用した。

無防備に蹲る奈良村の顎に玲子の右脚が迫る。と、命中直前、玲子は足首を思いっきり返し、爪先を立てながら奈良村の顎を蹴りあげた。脚のスピードに足首の返しがプラスされた瞬間的な超高速の蹴り、しかも道場では完全に禁じ手である爪先蹴りを、ブーツの硬い爪先で食らわせるのだ。グジャッ!という、何かを潰すような手応えを感じながら玲子は大きなフォロースルーを取って、右脚をパントキックのように高々と蹴り上げた。「ぶじゃーっ!!!」喉に玲子の爪先を突き立てられ、完全に呼吸を奪われながら奈良村は首をガクン、と真後ろに跳ね上げられ、仰け反るように倒れていった。ゴッ、ドザッ・・・奈良村の後頭部が、ついで全身が床に倒れこんだ。ピクッ、ピクッと全身が痙攣している。辛うじて首が折れるのだけは免れたものの、奈良村の意識は完全に消え失せていた。

「な、奈良村!」坊野の目の前で悪夢がまた、繰り返された。検見川、須崎に続いて奈良村までもが倒されてしまった。しかも、奈良村は丸腰ではない。得意のナイフを手にしながら、苦もなく倒されてしまったのだ。ゾク・・・坊野の背筋に悪寒が走った。ま、まさか、俺までやられる、ていうのか?俺たちが、俺たちSNOW CRACKが女にやられただなんて、こ、こんなことが広まったら、俺たちはもう、ストリートを歩けなくなるぞ・・・悪夢と弱気を振り払うかのように、坊野は激しく頭を振った。ば、馬鹿か俺は!俺まで女にやられるなんて、何馬鹿なこと考えてるんだ!弱気になんじゃねえ!ケミたちがやられたのは、女だと思って油断してただけだ!お、俺が、この俺が負けるわけがねえ!

大きく息を吸いながら坊野は金属バットを握りなおした。

「て、てめーら・・・よくもやってくれやがったな、もういい、輪姦すなんてどうでもいい、そのかわり、てめーら全員、どたまカチ割ってやる!」「アラ大変!ねえ玲子、困ったわ。私たち、頭カチ割られるのなんてごめんよね?」「当たり前でしょ!じゃ、礼子、最後の締めは取っておいてあげたんだから。相手のプレジ、一番おいしい相手は礼子にあげるからね、ごゆっくりどうぞ!」

パシーンッ!礼子はベルトを打ち鳴らすと坊野に微笑みかけた。「聞いた?ということで、貴方は私が苛めてあげるわ。さあ、かかってらっしゃい!」い、苛めるだと?そりゃ、こっちのセリフだ!こ、このクソガキ!血圧が上がり過ぎ、目の前が暗くなりかける程の怒りに燃えながら坊野が絶叫した。「て、てめ、そこ動くんじゃねえ!ぶ、ぶ、ぶっ殺してやるーっ!!!オラアッ!」坊野は両手でバットを握ると、礼子めがけて袈裟切りに思いっきり振り下ろした。だが礼子は軽いステップでスッと身をかわす。「オラア!食らえ!待ちやがれ!糞が!」絶叫しながら坊野は立て続けにバットを振り回す。確かに凄いスピードだ。当たれば頭をカチ割ることも出来るだろうし、腕でガードしても骨折程度しかねない。礼子のパワーではうまくベルトで受けても、パワー負けしてガードすることすら困難だろう。だがあくまで、当たれば、の話だ。剣道の高段者でもあり絶対的な見切りを身につけた礼子にとって、坊野のバットの動きは余りに単純過ぎた。何のフェイントもなく、ただ力任せに振り回すだけ。しかもいくら怪力の坊野とは言え、バットはそれなりの重量があり、木刀のように自在に振り回せるわけではない。一旦スイングを開始したら、空中で軌道修正など不可能だ。礼子にとって、そんなバットの動きを見切るのは容易いことだった。

フン、こんなものなの?このレベルならいつでも料理できるわね。礼子の唇の端に嘲るような冷笑が浮かんだ。だが、そうは言っても坊野のパワーは確かに凄まじい。礼子は無理をせず、冷静に待っていた、坊野のスピードが鈍るのを。そんなにフルスイングしちゃって、ご苦労様。でもその元気、いつまで続くかしらね。もう貴方が最後の一人だし、焦ることはないわ。ゆっくり付き合ってあげる。空振りは相手に当たった時の何倍も疲れる。ましてや重いバット、そして酒にタバコにドラッグに、と不摂生な坊野だ。スタミナがあるわけない。礼子の読み通り、僅か10スイング前後外されただけで坊野はもう、肩で息をし始めていた。そろそろいいわね。今まで避けるのに専念していた礼子が、ベルトを握り直した。「に、逃げんじゃねえ・・・」ゼーゼーいいながら坊野がバットを振り上げようとした瞬間、礼子は反撃に転じた。「ハイッ!」気合と共に礼子のベルトが宙を走る。ピシッ、パシッ!バットを顔の前辺りまで振り上げた坊野の両手に強烈にスナップを効かせたベルトの往復ビンタが襲い掛かる。「イデッ!ツッ!」疲れと痛みに坊野は思わずバットを取り落としてしまった。ガラーン、バットが床にバウンドし、転がる。や、やべえ・・・坊野は慌ててバットを拾おうとした。だが、一瞬早くバットを拾い上げたのは、礼子だった。「もーらいっと!」ベルトを右手に握ったまま、礼子は左手にバットを握ると、クルッと一回転させながら坊野に殴りかかった。「く、アウッ!」

頭を

殴られると思い、坊野は反射的にガードを上げ、必死で頭をカバーした。だが礼子の狙いは違った。わざと外しながらもう一回転、斜めにバットを回転させながら、礼子は坊野の右膝を殴りつけた。ガコーン!骨を殴りつける、いい音が響いた。「ガアッ!」思わず膝を押さえる坊野に、今度は鳩尾への突きを入れる。「グバアッ!」たまらず、坊野はよろけながら後ずさりする。だが礼子は深追いはしない。行ける!いいえ、未だよ。木刀ならいざ知らず、バットとの二刀流じゃ私のスピードも落ちちゃうわ。それに未だ完全に動き、止まってないわね。もう少し疲れさせといた方がやりやすいわね。・・・いいわ、バット、返してあげる。安易に追い詰め、手負いの野獣の反撃を食らったりしてはつまらない。止めを刺すのは完全に坊野の余力を奪ってからで十分だ。「うわ。痛そう・・・大丈夫?このままベルトとバットの二刀流で攻めたら、まるで私が苛めてるみたいね。じゃ、玲子も奈良村さんにチャンスをあげてたみたいだし、私も一度、このバット、坊野さんに返してあげるわ。」カラーン、礼子は無造作に、坊野の足元にバットを転がした。「ぐ、こ、この・・・な、舐めやがって!!!」

奈良村と同じく、坊野も完全に礼子の術中にはまってしまった。いくら優勢に戦っていても、やはり相手は男だ。礼子たちにとって、坊野たちが危険な相手であることは変わりない。しかも、自分たちが怪我するなど、真っ平ごめんだ。ではどうするか。挑発し、相手の冷静さを失わせるのが最善の策だった。そしてもう一つ、礼子たちの武器はベルト、鞭だ。拷問ではなく、鞭を武器にして戦う場合の最大のポイントは精神的な優位を保ち、相手を見下し、冷静さを失わせながら攻めることだ。防戦に回ると鞭は弱い。挑発と侮辱により、相手を精神的に追い込みながら戦う、まさに礼子たちの戦術こそが必要不可欠なのだ。

坊野はバットを拾い上げると立ち上がった。右足がふらつくが、立ち上がれない程ではない。「クッ・・・て、てめえ・・・やりやがったな・・・」怒りの余り殆ど顔面蒼白になりながら坊野が迫る。グッ・・・バットを握る手に更に力がこもるのが見て取れる。じりじりと間合いを詰める坊野を、礼子は涼やかな余裕の微笑を浮かべながら待ち構えていた。あらあら坊野さん、そんなに硬くなっちゃ駄目じゃない、それじゃ却ってスピード落ちるし、動きも丸見えよ。「て、てめえ・・・喰らいやがれ!」間合いを詰めた坊野は大きくバットを振りかぶり、反動を付けると思いっきり横なぎに殴りかかった。フン!また力任せに振り回すだけなの?学習効果の無い人ね。礼子は余裕の表情でステップバックし、かわす。だが坊野は空振りの勢いでそのままバットを振り上げ、返す刀で逆袈裟打ちに殴りかかる。礼子はこれもかわす。え?まだあるの?坊野のバットは止まらない。バットを休めず、今度は袈裟打ちに殴りかかる。

あらあら、勝負を賭けてきたのね。それにしても・・・オラオラで勝負、とはまた、随分単純に頭を使わない技に頼るものね。坊野さん、貴方本当に偏差値60以上のおつむなの?これじゃ昆虫並みのお馬鹿さんよ?もしかして、脳まで筋肉になってない?日体大にでも逝くつもりなの?「・・・オラオラ!オラオラオラオラオラー!」全身全霊を込めたラッシュだ、礼子にいくらかわされようと構わない。一発、一発当たりさえすれば良いのだ。巧みなスウェー、ステップバック、サイドステップを駆使してかわす礼子を坊野は必死で追い続けた。呼吸すら殆どしていない。無制限の全力ラッシュ、猛烈なスピードで振り回されるバットは、その半径内にある全ての物を粉砕しそうな勢いだ。

確かに坊野はある意味本物、喧嘩のプロだった。これだけの威力のバットの前では多少のテクニックなど、問題にならない。パワーで一気に押し切り、相手が反撃に出る前に叩き潰せる。礼子は苦笑していたが、これはこれで一つの正解、大抵の場合は相手を倒せるし、事実、今まで坊野がこの技を繰り出した時は全ての相手を血の海に沈めてきた。だが坊野は大事な要因を幾つか見落としていた。この工場、自分が礼子たちを連れ込んだこのアジトは充分に広く、礼子が自在にステップを踏み、坊野のラッシュをかわすスペースが充分にあることを。今までの相手はガードしたり、なまじ反撃しようとしたために、兎に角バットを当てることができたが、スピード、身体の柔軟性、動体視力、センス、全てにおいて坊野を遥かに凌駕する礼子が徹底して避けに回ったら、捕まえるのはほとんど不可能であることを。いくら興奮で痛みを忘れているとはいえ、バットで打たれた右膝は深刻なダメージを負っており、追撃のスピードがいつもよりは鈍っていることを。そして人間の活動には限界があり、こんな無酸素運動のマックスは約一分間、それ以上は続かないのが人体の構造だということを。

「ゼハッ、ま、待ちやがれ、オラ、チョコマカと・・・」坊野の全身の筋肉の乳酸値が急速に高まっていく。礼子は坊野のバットのスピードが急速に衰え、反比例するかのように呼吸が加速度的に荒くなっていくのを冷静に観察していた。フン、いいわね、そろそろ頃合ね。もう酸素供給能力が追いつかなくなっているようね。アドレナリンが出過ぎて気付いてないかも知れないけど、もうスピードがた落ちよ。スイングが波打っているのも気付いていないの?すっと礼子の足が止まった。チャ、チャンス!!!ガキが、とうとう捕まえたぜ!てめーも疲れて、もう逃げられねーんだろ!?極度の疲労に判断力が鈍った坊野は礼子が自分同様、疲れてもう足が動かなくなったのだ、と勝手に思い込んでしまった。礼子の罠かも知れない、等とは考え付きもしなかった。「く、食らえーッッッ!!!」絶叫と共に頭上高くバットを振り上げると、全身全霊の力を込めて唐竹割に

振り下ろした。

フッ・・・坊野が勝利を確信し、両手に礼子の頭蓋骨を陥没させた感触をすら感じた瞬間、礼子はすっと体を右後方に開きながらサイドステップし、当然のように坊野の必殺の一撃をやりすごす。ゴッ・・・全力で床を殴ってしまい、両手に痺れを感じると同時に坊野は一瞬、目の前に黒い蛇が出現したように感じた。ビシッ!「ギアッ!」坊野の悲鳴が響いた。礼子はバットをよけた動きをそのままバックスイングに利用し、カウンターでベルトを見舞っていた。狙いは・・・坊野の目だ。全力でバットを振り下ろし、無防備状態の坊野の両目を礼子のベルトは完璧に捕らえた。「グアッッッ!!!」余りの痛さに坊野は思わずバットを取り落とし、両手で目を押さえてしまった。「あああああ!」だが礼子が悠長に痛みに浸る時間を与えてくれるわけが無い。

「ハッ!」礼子は素早くバットを拾い上げると、視界を失い無防備の坊野の鳩尾に鋭い突きを入れる。「グホッ!」目が見えない坊野は、いつどこから攻撃されるのか、まったく分からない。予期せぬ痛みに喘ぐ坊野に、礼子は冷酷に追い討ちをかける。左手に握ったバットを一回転させ、充分なスピードを得ると今度は坊野の右足脛、弁慶の泣き所を思いっきり殴りつけた。ガシッ!バットの芯が的確に坊野の脛の骨を捕らえる、あ、いい感触、骨逝ったかな?素晴らしい感触が礼子の全身を悦ばせる。「ウギャーッッッ!!!」いくら女の子の、片手での一撃とはいえ、脛の骨をバットで思いっきり殴りつけられては溜まらない。「ほ、骨があああっっっ・・・」余りの激痛に坊野はガクンと膝を折ってしまった。最低でも骨にヒビが入ったことは間違いなさそうだった。鳩尾と足の余りの痛さに、無意識の内に両手が下に下がる。目を押さえていた両手は今まで、一応頭部のガードになっていた訳だが、そのガードが完全に外れた。しかも両目は霞んでいて殆ど見えない。礼子はまさに、この隙を待っていた。

「隙あり!」気合もろとも、礼子はスナップを思いっきり効かせ、強烈なベルトの一撃を繰り出した。狙いは勿論、先ほどと同じく坊野の目だ。ピシーン!!!「ギァアアッ!め、目が、目があーっっっ!」礼子の熟練の鞭は坊野の目を確実に捉え、完璧に打ち据えていた。「い、いでえ、いでえよーっっっ!!!」先ほどより遥かに強烈な鞭に打ち据えられ、坊野は完全に視力を奪われてしまった。いや、視力どころではない。人体最大の急所の一つである目を革のベルトで思いっきり打ち据えられたのだ、これでは堪ったものではない。余りの痛みに両手で目を押さえ、坊野は床を文字通り、のたうち回っていた。激痛にのたうつ坊野に礼子は慎重に近づいた。大丈夫かな、まだ実は余力を隠しているんじゃないかしら。礼子は焦る気は全くなかった。実際のところ、坊野をいたぶる気すらない。合理的に、自らがリスクを背負うことなく確実に仕留める。そのた

めに最も合理的な方策を取ろうとしているだけだ。但し、いたぶる気もないが礼子の意識には坊野の味わう苦痛に対する配慮も全くない。

「い、いでええええ!!!」仰向けに横たわってのたうち回る坊野に近づくと、礼子は左手に握ったバットを振り上げ、坊野のがら空きの鳩尾に再び、深々と突き立てた。「ぐ、ぐげえーっっっ!」坊野の右手が鳩尾を押える。あらあら、右手だけなの、じゃあ、もうワンステップ必要ね。礼子は再びバットを振り上げ、鳩尾を押える坊野の右手に更に突きを入れた。「あ、アデッ!いでーよーっ!!!」手の甲は骨が皮膚のすぐ裏を走る、人体の急所の一つだ。繊細な手の甲の骨をヒビが入るほどバットで突かれ、新鮮な激痛に坊野の左手が反射的に顔から下り、右手に向かう。チャンス!礼子の右手が閃き、ベルトが再び宙を切る。バシーン、ビシーン!礼子の無慈悲なベルトは坊野の左右の耳に往復ビンタを喰らわせる。「あ、アバアッッッ!!!」キーン・・・痛い、と言うより頭の中で爆弾が破裂したかのような衝撃波に脳を揺さぶられる。耳は平手打ちでさえ、的確にヒットすれば重大な衝撃を与えられるポイントだ、そこをベルトで思い切り打ち据えられては堪ったものではない。「・・・!!!」最早声にもならない悲鳴に口を大きく空け、坊野は床をのたうち回る。視力に加え、耳を通して三半規管に加えられた打撃に平衡感覚すら奪われ、最早自分がのたうち回っているのか、ただ痙攣しているだけなのかすら分からない。

「グォブォッ!!」鳩尾に鈍い痛みが走る。自分が巨大な虫ピンに貫かれた昆虫のように感じる。そう、確かに礼子は左手に握ったバットを思い切り坊野の鳩尾に突き立て、動きを完全に封じていた。坊野の両手がすがるようにバットを掴む。そうよ。ちゃんと握っていてね。邪魔だから顔をガードなんかしないでね。パシーン、ピシーン!「ひ、ヒギーーーッッッ!!!」坊野の両頬に革ベルトの往復ビンタが炸裂する。両頬が吹き飛ぶような激痛といつ襲い掛かるか想像もつかない鞭の恐怖に坊野は遂にパニック状態に陥ってしまった。「い、イギーーッッ、ヤ、ヤベデグレーーーッッッ!!!」最早SNOW CRACKのプレジ、等という誇りはどこにもない。金切り声を上げながら半ば本能だけで頭を抱えて床をのた打ち回り、泣き叫ぶ坊野を礼子は相変わらず優しい笑顔で微笑みながら見下ろしていた。「痛そうね坊野さん、今止めを刺してあげるわ。」だがその声は、最早坊野には届かない。

「グヴェーーーッッ!」突然、呼吸を奪われ坊野は空気が抜けるような悲鳴を漏らす。絶叫しようにも、喉を突然襲った激痛が悲鳴すらまともにあげさせてくれない。「グギェーーーッ!」止めを刺しにかかった礼子の茶色いブーツを履いた右足が、坊野の喉を踏みつけ、呼吸を封じて意識を刈り取りにかかっていた。激痛と苦しさ、死んだほうがマシな程の苦痛に、断末

魔の痙攣のようにもがきながら坊野は必死で礼子のブーツに覆われた足首を掴む。その姿はまるで礼子の足を押し戴いているようだった。一瞬、礼子の顔に戸惑いの影が走る。あら、もう十分にダメージを与えたつもりだったけど、計算が違ったかしら?掴まれたままじゃ厄介ね・・・だが冷静に見下ろすと、自分のブーツに縫い付けられてもがく坊野の顔にあるのは断末魔の苦しみにもがく、苦悶の表情のみだ。・・・うん、大丈夫ね。あと一押しで止めを刺せるわ。じゃ、いいわよ坊野さん、そのまま私のブーツ握ってて。余計なガードなんかしないでね。今、楽にしてあげるから。「ギュァッ!・!・!」坊野の悲鳴が更に苦しそうになる。礼子は坊野にブーツを掴ませたままスット足首を返し、坊野の喉の上に片足立ちしていた。呼吸を完全に封じられた坊野の視界は真っ暗になり、チカチカと星が瞬く。最早自分の喉を踏みつけ、完全に動きを封じた礼子がブーツを履いた左足を高く引き上げている姿など、坊野には全く見えなかった。ドウッ・・・硬いブーツのヒールを纏った礼子のストンピングが坊野の鳩尾深くにめり込む。「ガヴォアッッッ!!!」全身をビクビクと苦痛に痙攣させながら、坊野の意識が急速に消えうせて行く。意識が途切れる最後の一瞬、坊野の脳裏に鮮明な画像が走った。それは・・・相変わらず涼しげに微笑む、礼子の優しげな微笑だった。

ま、まさか、そんな・・・慎治たちは工場で繰り広げられた惨劇を呆然と見つめていた。ま、まさか・・・まさか坊野さんたちがやられるなんて、それも、一矢も報いることができず、一方的にやられちゃうなんて・・・だが、坊野たちSNOW CRACKの幹部四人が全員、血塗れになって大の字に横たわり、気絶しているのは紛れもない現実だった。「ど、どうしよう・・・ねえ、ど、どうしよう???」余りに予想外の展開に言葉を詰まらせながら、慎治は独り言のように問い掛けた。「ど、どうしようったって・・・」たずねられた信次にも、答えなどない。信次が期待していたのは、玲子たち四人がグチャグチャに輪姦され、泣き喚く姿だった。だが、泣き喚いていたのはSNOW CRACKの方だった。「ど、どうしようったって・・・」とその時、信次はとんでもないことに漸く気づいた。輪姦されかけたんだ、玲子さんたち、もしかしたら警察呼ぶかもしれない。で、周りを調べた時に俺たちが見つかったら!!!

こ、怖い!警察が怖いのではない。自分たちが依頼主だということが、もし玲子さんにバレタら!!!こ、殺される!!!「し、慎治、や、やばい、やばい!!!」慎治もほぼ同時に気づいていた。「う、うん!!!や、やばいよ、は、早く、早く逃げなくちゃ!!!」だがその時、背後からの声が慎治たちの心臓を凍りつかせた。「駄目じゃん信次、途中で帰っちゃ。ゆっくり最後まで楽しもうよ。」イ゛ッ!思わず悲鳴を上げそうになった二

人が振り向くと、後ろには真弓と里美が立っていた。

もともと暴力礼賛、M的快感への目覚めは皆無の「レイコとシンジ」ですが、SM、或いは苛めといった限度を取り払ったら、そこから先はむしろ拷問、処刑の領域に接近すると思います。

では素人であるレイコたちにとって、暴力、換言すれば他人に苦痛を与えられる極限はどのあたりにあるのでしょうか。身近にある道具だけを使った拷問で試してみたいと思います。

「レイコとシンジ ―復讐するは我にあり:中編―」

「な、なんでここに!!!」「い、いつからいたの!!!」慎治たちの金切り声にも似た悲鳴が響く。眼前で繰り広げられた予期せぬ光景に100%の神経を集中していた慎治たちは、背後に迫っていた真弓と里美に全く気付かないでいた。不意に声をかけられ、心臓が飛び出そうな顔をして口をパクパクさせる慎治を真弓は面白そうに見ていた。「なんでここに、ていうのは私たちが聞きたいんだけどな、ねえ里美?」「全くよね。ま、種明かしをしてあげるとね、私たちは玲子に頼まれてたのよ。ほら、玲子たちの家庭教師の良治先生たち、あの二人にランクル出してもらってね、ずっと玲子たちの後を追って、万が一に備えてたのよ。で、玲子の予想通り連中、玲子たちをここへ連れ込んだじゃない?だから私たちも追っかけて、中が見えるポイントを探したって訳よ。」「そう、玲子にはもし連中が予想以上に強くて玲子たちが危ない状況になったら、速攻で警察呼んでくれ、て頼まれてたからね。2階からなら中の様子も見えるかな、て思ってきたら、予期せぬ先客がいた、て訳よ。まあ最も、良治先生たち、表で待ち構えてるけど木刀とかヌンチャク用意してやる気満々みたいだったから、万一の時は警察が来る前に連中、秒殺されてたと思うけどね。」

な、なんてことだ。全て読まれていたんだ。せ、折角ここまで玲子さんたちを誘い込んだのに、はなから無駄だったんだ。玲子さんたちは、自力でSNOW CRACKを潰せればそれでよし、もし負けても即警察呼んで、助けて貰えるようにしてたんだ。どっちに転んでも、僕たちが仕返しなんかできなかったんだ・・・慎治たちの脳裏に良治たちの逞しい肉体が浮かんだ。十二分に鍛え上げた巨体、しかも空手三段、剣道二段だ。大会で入賞できるレベルではないとはいえ、この二人のレベルで木刀やヌンチャクを使えば、ストリートでははっきり言って手のつけようがない。SNOW CRACKだ、なんだと言っても所詮は素人、ナイフやバット程度用意しても全くの無意味、四人ともあっという間に叩きのめされていただろう。玲子の用意周到さは慎治たちの想像を遥かに上回っていた。な、なんてことだ・・・よく見ると真弓も里美も革ジャンにブルージーンズ、足元はブーツで固め如何にもいざとなれば一緒に参戦するよ、というスタイルだ。だがそんなことはどうでもいい。問題は玲子たちに陰

謀が全て露見した、ということだ。慎治たちの心臓が喉からせり上がる。膝がガクガクと震える。胃がキリキリと痛み下腹部が締め上げられるように痛む。恐怖の余り居ても立ってもいられない。「あ、ああ・・・」「ち、ちが、ちがう!!!」反射的に二人はなんとか誤魔化そうとした。「ち、ちが、ちがう・・・ぐ、偶然、ほらね、偶然なんだよ!!!」「そ、そう、ね、僕たちた、たまたまこ、ここ、ここを通りがかったらさ、玲子さんたちが連れ込まれるのがみえて、そ、そう、助けようとしたんだよ!そ、そうだよな、なあ慎治!?」「そ、そうだよ!き、決まってるでしょ?ね、ぼ、ぼくたち、そ、そう、たす、助けようとしたんだよ、ね、そ、ぞでしょ、そうでしょおおおっ!!!」二人の必死の言い訳を真弓たちはクスクス笑いながら眺めていた。馬鹿ね、現行犯逮捕されといて今更言い訳もなにもあったもんじゃないと思うんだけど?

「ふーん、助けようと思ったね。ま、いいわ、そういうことにしといてあげる。じゃあ、ここに白馬の騎士になり損ねた二人組がいるよ、て玲子たちに教えてあげなくちゃね。よりにもよって日頃苛めまくってたあんたたちが助けに来てくれてたただなんて、ちょっとした感動物語じゃない?玲子もきっと喜ぶわよ?もう苛めないでくれるかもね?」里美は革ジャンのポケットから携帯を取り出すと、ストラップを指に引っ掛けてクルクル回す。ひ、そ、それだけは!!!慎治たちは殆どパニック状態になって飛び上がる。玲子さんたちに知られる!それは死刑宣告を意味する。ぼ、僕たちがこ、ここに居たなんて知られたら、こ、殺される、間違いなく殺される!い、いやだ、し、死にたくないーっっ!!!ガバッ・・・信次は反射的に里美の足元に土下座する。「お、お願い、み、見逃してよーっっっ!!!」慎治もはっと我に帰ると真弓のブーツにすがりつく。「た、助けて、お、お願い、な、なんでもするから、だ、黙ってて、僕たちのことは黙ってて、お、お願い、おねがい・・・・こ、殺されちゃう・・・」もう恥も外聞もない。信次たちは二人とも大泣きし、涙と涎で顔中ぐちゃぐちゃだ。真弓たちを倒して逃げよう、等という考えは信次たちの頭を掠めもしない。玲子や朝子よりは一枚劣るとはいえ、空手部で鍛えあげられた真弓も里美も信次たちから見れば雲の上の存在だ。特に信次は組手で毎週のように蹴りのめされている身、真弓たちの強さも自分の弱さも骨身に浸みている。第一、逃げてもどうにもならない。仮にここを逃げおおせたとしても、真弓たちは直ぐに玲子に事情を報告するだろう。そうしたら結果は全く同じだ。信次たちがこの危機を逃げるには、真弓たちを殺す、文字通り殺すしかない。だが、あれだけ苛められた玲子たちをすら殺す決心ができなかった二人に、そんな覚悟ができるわけがない。できるのは唯一つ、哀願だけだった。真弓たちのブーツを舐めんばかりに

二人は必死に哀願するが、玲子たちの親友でもある二人が受け入れるわけがない。勿論、信次たちにもその程度は分かっている。分かっていても哀願せずにはいられない。何もできないが何かしていないと気が狂ってしまう。信次たちは真弓たちのブーツにすがり、涙でブーツを濡らしながらひたすら自慰のような無意味な哀願を続けた。

真弓たちはニヤニヤ笑いながら足元に這いつくばる二人を見下ろしていた。バーカ、許して貰えるわけないでしょ?ったく、いつまでこうやってるつもりなのかしらね。フフ、でもここまで惨めに泣き喚く姿を見るのって、ちょっと楽しいわね。このまま、ここでゆっくり苛めてやろうかしら。この調子なら、ちょっと脅せば私たちのおしっこだって飲ませられるんじゃない?だが、ふと階下を見た真弓たち二人の顔に、更に残酷な冷笑が浮かんだ。クイッと里美はブーツの爪先で信次の顎をこじ上げる。「信次、泣いてるのはいいんだけどさ、下でもっと面白いイベントが始まるみたいだよ。フフ、取敢えず、一緒に見物しようよ。・・・玲子に電話するのは後回しにしてあげるからさ。」え、面白いこと?嫌な予感を感じながらも逆らえずに階下を見た信次の視線が凍り付いていく。

礼子が坊野に止めを刺し、一階で立っているのは礼子たち四人だけだった。坊野たちは完全に気を失い、あちこちでだらしなく伸びている。「フウッ、片付いたわね。うまくいったわ。」流石にほっとした様子で礼子が皆を振り返る。「お疲れ礼子、いい攻撃だったじゃない、目潰し鞭、とは考えたものね。」「ありがとう、そういう玲子もあのナイフ、いいコントロールね。ナイフ投げの練習もしたことあるの?ま、最も玲子のコンビネーションのポイントは、あのナイフ投げより、その前の唾にあったのは分かってるけどね。玲子も朝子もブーツをフルに活かしたキックで止めを指したけど、あの唾攻撃はいい発想ね。」「あ、分かった?そう、あれは確かに唾がポイント。まあ、唾攻撃は富美ちゃんの十八番だけどね、たまにはいいや、と思って私も使わせてもらったわ。」と言いながら礼子たちの言葉がふと止まる。富美ちゃん・・・視線を投げかけられた富美代の顔に、吹っ切れたような笑顔が浮かぶ。「ううん、もうみんな、気にしないで。もう先輩のことなんか、何とも思ってないから。それより・・・」富美代は言葉を切って礼子たち三人を見まわす。「・・・ありがとう。本当にありがとう。みんなが助けてくれなかったら私、ここで人生終わってたかもしれなかったね。ありがとう!」良かった、富美ちゃん、もう大丈夫ね。礼子たちの顔にもほっとした安堵が浮かぶ。その時、玲子がパンッと手を叩いた。

「さあさあ、休憩はここまで、今日はまだまだやることがあるんだからね。礼子、手を貸して!」「何、どうするの?後は警察呼んで、坊野さんたち引き渡してお終いじゃないの?」「うん、私も最初はそう

思ってたんだけどね、よく考えるとこの人たち、なんで四対四にこだわったのかしら?富美ちゃんを狙っただけとは思えないわ。だったら礼子と富美ちゃん、可愛い子二人まとめてゲットしたんだから、礼子たち二人を誘ってレイプしてお終いのはずじゃない?それをなんでわざわざ、四人でドライブしようなんて指定してきたの?輪姦するって言ったって、四人に人数増やしたら却ってやりにくい筈でしょ?何か理由がありそうじゃない?だったら聞いておかないと。単純に警察に引き渡しても、私たちを襲わせた根っ子を叩いておかないと、また別の形で襲われる可能性があるわ。だから、どうしても理由を聞き出さないといけないのよ!」「・・・そうね、確かに変よね。だけど、これだけ派手に痛めつけた私たちが聞いて、素直に答えてくれるかしら?」プフッ!玲子が思わず吹き出した。「礼子、よく考えてごらん。これ、私たちの安全のためだけじゃないわよ・・・ウフフ、当然、こいつら絶対、素直に喋らないわよ。だったら、無理やり聞き出すしかないわよね。違う?それって・・・」ゾクゾクッ!礼子の背中に強烈な電流が走る。「・・・それって・・・拷問・・・ね・・・」「ご名答。フフ、私たち、信次たちを散々痛めつけてきたけど、あれは言ってみれば苛めとかリンチの範疇よ。これは違うわ。正真正銘の拷問よ。どう礼子、本物の拷問、礼子が憧れてきたのはこれじゃない?お遊びじゃない、私たちには拷問する正当な理由があるし、相手も本物の犯罪者、拷問されるのが当然の相手よ。犯罪者を拷問にかけて無理矢理自分の罪を、バックを白状させる、まさに・・・正統派の、これぞまさしく拷問、ていうシチュエーションよ。どう礼子?」礼子の美貌に凄絶な微笑が浮かぶ。嗜虐と冷酷さと残忍さに満ち満ちた微笑だ。「玲子、あなたってほんと、最高ね!本物の拷問、ああ、最高のシチュエーションよ!こんな機会、二度とないわ、やろう、拷問、今日は最高の一日になるわ!富美ちゃん、朝子、あなたたちもやるわよね?あ、もっとも」礼子はクスクス笑う。「嫌なら別にいいわ、無理にとは言わないから遠慮なく言って。代わりにその分、私がいっぱい拷問させて貰うから!」「あ、礼子ずるい!独り占めはよくないよ、ねえ富美ちゃん、私たちだって拷問したいよね!?」「当然よ!大体、一番拷問する権利があるのは私なんだから!」

「OK,話は決まったわね。じゃあ礼子、手伝って。連中が失神している間に下準備をしておこう!」「下準備?どうするの?」「うん。いつも礼子が慎治を苛める時と基本的には同じよ。拷問中に動かれたり、抵抗されたりしたら面倒だからね。完全に動きを封じておくのよ。一応ロープ用意して来たからさ、今のうちにしっかり縛り上げとこう。」ロープで縛る?全く用意周到なんだから。玲子ったら、もしかして拷問まで今日の予定に入れてたんじゃない?もう、この苛めっ子は

・・・苦笑しながらも礼子は自分の中で残虐性が抑えきれないくらい高まりつつあるのを感じていた。残虐性、いや破壊衝動、と言った方が正しいだろうか。坊野たちの肉体を痛めつけ、精神を屈服させてやる。慎治たちを苛めるときは一応、一生残るような傷は与えないように気を配っているけど、今はそんな必要更々ない。どうやって痛めつけてやろうかしら。どんな悲鳴をあげるかな。誰の悲鳴が一番大きいかしら。思いっきり手加減なしで痛めつけたら、どんな風に痙攣するのかな。楽しみ・・・ゾクゾクしちゃうわ。肉体が奥深くから燃え上がるのを楽しみながら坊野たちを縛り上げようとした時、ふと礼子の手が止まった。・・・そうよね。今日は拷問をするのよね。普段の苛めなら縛るだけでいいけど、もっと遥かに暴れるんじゃないかしら。それにこの人たち、慎治たちよりはずっとパワーもあるわ。もっと念入りに、抵抗できないように仕込んどかないと集中して拷問を楽しめないわね。「ねえ玲子、拷問にかけたらこいつら、流石に死に物狂いで暴れるんじゃないかしら。ロープで縛るだけじゃちょっと不安よ。どうやっても抵抗できないようにしとこうよ。」どうやっても抵抗できないようにする?確かに礼子の言うとおりね。だけどどうやって?「・・・そうね。確かに縛るだけじゃちょっと不安ね。だけどどうやる?礼子、何かいい考えある?」「うん。要は仮に拷問中にロープが外れても、動けないようにしとけばいいのよ。縛る前にね、連中の肩と股関節、左右両方とも外しちゃおう。その上で縛っちゃえば、腕も脚も力の入れようが無くなるから、絶対にほどけないよ。それに万々が一ほどけちゃったとしても、関節外しておけば立つことすら出来ないからね、怖くも何ともないよ。まあ、本当は関節を外すのも立派な拷問の内だから気絶してる間に外しちゃうのは勿体無い気もするんだけどね、意識を取り戻されてからじゃあ仕事が厄介よ。連中がお寝んねしてる今のうちに、さっさとやっちゃおう!」なるほど、流石は礼子ね!確かに肩と股関節を全部外しちゃえば、連中もう、どうしようも無くなるわね。後は・・・私たちの思うがままよ!「OK,じゃあ私は奈良村さんと須崎さんをやるから、礼子は坊野さんと検見川さんをよろしくね。」

ゴキッ・・・バキッ・・・嫌な音が何度も何度も響いた。礼子たち二人は四人の腕を、脚を掴むと無造作に、次々と関節を外していく。いくら武道の達人である礼子たちでも、実戦で相手の関節を外していくのはそう簡単なことではない。相手も生身の人間、必死で抵抗するし逃げもする。だが今は坊野たちは四人とも完全に失神し無防備の状態、これなら仕事は簡単だ。礼子たちはニワトリの羽でも折るかのように、いとも簡単に坊野たちの関節を外し、一人四回、四人合計十六回、関節が外される音を響かせた。全員の関節を外したところで玲子がバッグから四本のロープを取

り出し、礼子に二本を渡した。「じゃあ礼子、そっちをお願いね。こんな風に腕と脚をしっかり重ねて縛っちゃって。」肩と股関節を外され、普段より遥かに体が柔軟になった奈良村の両手両足を背中側に回すと手首を膝裏と、肘を足首と重ねて厳重に拘束し、更に左右の腕、脚をびったりと重ねて縛りつけた。玲子たちはヨットにも乗るだけあってロープワークはお手の物だ。絶対にほどけず、緩まない縛り方でしっかりと拘束する。SNOW CRACKが未だ完全に気絶している間に、拷問の準備はすっかり整った。これだけ厳重に縛られては絶対に抵抗できない。第一、手足を四本とも外されているのだ。寝返りを打つことすらままならない。すっかり準備が整ったのを見た朝子が、例によってキョトンとした表情で尋ねた。「ねえ玲子、拷問、ていいんだけどさ、よく考えてみたら今日は私たち、鞭も何も持ってきてないじゃない?どうやろう、道具もなしで、拷問なんてできるのかな?」「チッチッ・・・」玲子が立てた人指指を振った。「朝子、難しく考えないの、そんな大げさな道具がなくても、十分に痛い目にあわせてやるのなんて簡単よ。たとえば連中、ナイフだバットだ、て道具を用意して来てるじゃない?それを使うだけでも十分、拷問できるわよ。ま、単純にナイフで刺すとか切るとかじゃなくて、どう創造的な拷問を考えるか、そこが腕の見せどころよ!」

「そう、朝子も富美ちゃんも頑張ろうね。もう滅多にないチャンスなんだから、精一杯楽しい拷問を考えようね。」ロープの具合を確かめていた礼子が振り返る。「あ、そうだ。拷問を始める前に、少し前振りもしておこうか。」「前振り?何するの?」「うん、折角拷問するのにさ、ちょっと痛めつけただけで直ぐ白状されたら興醒めじゃない?だからさ、こいつらが絶対喋ってたまるか、て私たちに対して目いっぱい反抗的になるようにしとくのよ。そしたらさ、その反抗的な態度を屈服させるのもまた、拷問の最高の楽しみのひとつになるよ!」「いいわね。礼子、乗ってきたジャン!OK,いいわよ、前振りは礼子に任せるわ。私たちも合わせるから。」礼子たちはゆっくりと各々の獲物に近づき、活を入れて意識を取り戻させる。「グッ・・・グブウッッッ・・・」苦しげに大きく息を吐き出しながら坊野が息を吹き返した。「ウグッ・・・」失神していたおかげで忘れられていた痛みが復活する。未だ目も耳も、腹も喉も足も、全身のあちこちが痛い。だが痛みだけではない。全身が何か、不自然に緊張している感じがする。「・・アヅアッ!!!」無意識に腕を動かそうとした坊野の肩に激痛が走る。動かない。腕はまったく動かないのに肩と、何故か分からないが股にも激痛が走る。必死で首を動かすと自分の脚と腕が完全に重なっている。な、なんだ???ロープ?俺は縛られてるのか?

「お目覚めかしら、坊野さん?」コツコツと頬を小突かれ、坊野は上

を見た。礼子の美しい顔が自分を見下ろしていた。そして頬を小突いているのは、礼子の茶色いブーツの爪先だった。「随分よく寝てたわね。いい加減、待ちくたびれちゃったわよ。」「て、てめえ、よ、よくもやりやがったな・・・お、覚えてやがれよ、必ず、必ずこの礼はするからな!」

「あら怖い怖い、でももう少し、自分の置かれた状況を見てから物を言ったほうがいいわね。」礼子はスッと右足を上げると、ゆっくりと坊野の顔を踏み躙る。頬を、鼻を、口をゆっくりと踏み躙る。「グッ、ブアッ、ゴ、ごの、や、やめろーっ!!!」顔面を女の子のブーツに踏み躙られる屈辱に坊野は絶叫しながら必死で顔をそむけようとする。だが両手を完全に縛り上げられ、しかも全く動けない体では、いくら顔をそむけても却って礼子のブーツに自分の顔をこすりつけているようなものだ。「アハハッ!そんなに私のブーツが好きなの?坊野さん、あなたもしかして変チャン?ギャングだなんて大嘘で、本当は私に苛めて欲しくて後つけてる、ストーカー君なんじゃないの?ねえ、土日はもしかして、秋葉原にでも入り浸ってるんじゃないの?」笑いながら礼子は坊野の顔面を踏み躙り続け、更に嬲る。「ほら白状しなさいよ、僕たちSNOW CRACKはお宅のストーカー集団です、てね!アハハハハハッ!ほらいい子でおねだりしてごらん!お願い、僕ちゃんを苛めてくださーい、てね!アハハハハハハッ!」「ち、畜生、な、舐めんじゃねえ!俺たち、俺たちSNOW CRACKを舐めんじゃねええっっっ!!!」坊野は顔中を口にして必死で絶叫した。四肢の関節を外され、厳重に縛り上げられた坊野にできる唯一の抵抗は唯一つ、空しく叫び続けることだけだった。

「ち、畜生!ほ、解きやがれ、このロープをほどきやがれーっ!グッ・・・」コンコンッ、礼子はブーツの踵の角を立て、坊野の喚き散らす口を軽くノックする。歯や唇は筋肉が無く神経に直結する敏感なポイントだ、いくら軽く、とはいえブーツの踵で小突かれてはかなり痛い。「まあどうでもいいわ、タッキー君、苛めるのは勘弁してあげる。私ね、お宅って趣味じゃないの。どうせ苛めるなら、もうちょっと可愛い坊やを苛めたいわ。」一旦言葉を切った礼子の切れ長の瞳に、妖しい光が輝く。「だから許してあげるわ。但し、私の質問に素直に答えてくれたらね。いい?タッキー君、なんで私たちを襲ったの?貴方たちみたいなお宅のストーカー坊やたちが、私たちを襲おう、なんて勝手に思いつけるわけないわ。誰かに頼まれたんじゃないの?白状しなさい、誰に頼まれたの?白状したら・・・これ以上苛めるのだけは許してあげるわ。」ゆ、許してあげるだ!?た、タッキーだ!?い、苛めるだ!?未だ自分の立場を、そして礼子の性格を理解できない坊野の頭に血が上る。「ざ、ざけんじゃねーっっっ!!!だ、誰がてめえの言いなりになってたまるか!お、俺を誰

だと思ってやがる!な、舐めんじゃねーぞ、だ、誰がしゃべるもんか!てめえの質問になんぞ、絶対に答えてやるもんか!」スッと礼子はブーツを坊野の顔から下ろし、地べたに転がされたまま喚く坊野を見下ろした。「随分威勢がいいわね、タッキー君?でもいい?私の質問には素直に答えた方が身のためよ。もし答えたくないなら、お願いです、答えさせてください、て貴方が泣いてお願いしたくなるようにするまでよ。いい?よく聞きなさい。私の質問に素直に答えないなら・・・拷問に掛けるわよ?」

拷問・・・一瞬、坊野の目に狼狽と恐怖の色が浮かんだ。礼子はつい先程手酷く痛めつけられた相手、しかも痛めつけるツボを心得ていそうな相手だ。おまけに今、自分は厳重に縛られていて身動き一つ取れない。一体、どんな目に会わされるのか・・・馬鹿野郎、俺は何を弱気になってるんだ!?相手はたかだか女一匹じゃねーか。俺だって何十回も喧嘩してきたんだぜ、殴られたことなんか幾らでもあるわな!こんなクソガキ一匹に何ビビッテんだよ!こんな女程度に殴られる程度、全然怖くねーだろーが!必死で気合を入れ直し、坊野は地べたから礼子を睨み上げた。「あ?それで俺を脅してるつもりかよ!?この坊野を舐めんじゃねーぞ!誰がてめーなんぞに喋ってやるもんか!殴りたきゃ殴りやがれ!てめーに殴られた程度でな、この俺が詫び入れる、とでも思ってんのか?笑わせんじゃねえ!」ゾクッ・・・喚きながら坊野の背筋に悪寒が走った。礼子は笑っていた。その美しい顔に浮かんだ笑みは親しみ、好感を感じさせるものでない。どこかで見たことのある顔だった。そうだ、この顔、俺たちが拉致った奴らにヤキ入れる時の顔じゃねーか。だが礼子の笑みはなまじ美貌の分、より迫力があった。猫が鼠を弄ぶような、残忍、冷酷、無情な笑みだった。「言ってくれたわね、タッキー君?いいわ、私の警告を無視するなら、勝手にしなさい。拷問に掛けて泣き叫ばせてあげる。その強がりがいつまで続くか、楽しみね。」